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ギター弾き語りをAIマスタリングしてくれるiPhoneアプリは飛び立てるか?(3/3 ページ)

» 2021年02月22日 12時11分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]
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グローバルなトレンドに沿ったEQ処理

 現時点では、EarPods付属のマイクを想定した処理を行っているという。ただ、EarPodsでないと動作しない、ということはなく、筆者が試したところ、iPhoneの本体マイクでも録音・録画は可能だった。ただ、2トラック目の収録時には、イヤフォンが必須だ。イヤフォンでないとモニタリングできない仕組みだし、たとえ、スピーカーから音が出たとしても、その出音を拾ってしまうので、収録時に音がかぶってしまう。

 冨山氏によると、iPhoneの機種によっては、内部のサンプリング処理の関係で、2トラック目の収録時からイヤフォンを使用すると、ピッチが変化してしまう可能性があるという。ちなみに筆者のiPhone 12 Proは、ピッチが変化することなく、普通に収録できた。

 使用感において、忌憚(きたん)のない評価をすると、正直、まだまだ道半ばの感は否めない。当然ながらメンバー達もそれは重々承知だという。ただ、EQ処理の方向性は、間違ってはいないと思う。全体的に、キラキラのシャキッとした印象の音に仕上がるあたりは、マスタリングにおけるグローバルなトレンドに沿っているように感じる。欲をいえば、もう少しコンプレッションを効かせ、音圧を稼いでもいいのではないか。現状は、キラキラ感が増す分、音の薄さが強調されてしまう。

photo 「仕上がり選択」画面でミックスとマスタリングの設定ができる

 また、設定を簡単に行えるように、という考え方もあり、ミックスとマスタリングの設定値は、最小限の選択肢からしか選ぶ仕組みだ。ここを、ユーザー自身もパラメーターをいじれるようになると、さらにマニアック感が出ると思う。また、エフェクトがリバーブだけというのも寂しい。例えば、生ギターには、定番中の定番であるコーラスエフェクトが欲しくなる。ぜいたくを言えば、80年代のスタジオワークでは定番だったエフェクター「Roland Dimension D」あたりをモデリングしてくれるとありがたい。

 さらに付け加えるなら、今のユーザーインタフェースはちょっとばかり簡素すぎる。DAWのプラグインにあるような、スタジオのコンソールやマイクなどの画像がアレンジされていると、使う側の気分も上がる。

 この記事の編集担当である松尾公也氏が、OTO-nectの使い方をザ・ビートルズの「Yesterday」を作例にして、YouTubeに公開しているので、ご覧頂きたい。ギターの収録から、歌詞入れまで一連の作業を確認することができる。

価値を認めれば、ちゃんとお金を支払う音楽ファン

 今回のプロジェクトをマネジメントする大平氏は、「4月下旬に予定されている事業化審査に合格することが、最大のマイルストーンです」と説明する。そこで事業化が決定すると予算が付き、人的リソースを割り当てられるという。

 そうすることで、アプリの機能を高め、より洗練させ、継続的に利用してくれるユーザーの母数を増やし、課金ユーザーへと導きたいとしている。「コンバージョン率は、5%を目指しています」(吉川氏)と意気込む。一般論からすれば、高めの目標だが、音楽ファンが納得する機能や性能を確保すれば、決して不可能な数字ではない。

 ちなみに、Spotifyのコンバージョン率は、40〜50%と、どんでもない数字を叩き出している。ライバル間でコンテンツの差別化ができない音楽サブスクリプションサービスにおいて、ここまでの成績を残しているのは、UI/UXやリコメンド機能を徹底的に磨き込んだ結果であろう。音楽ファンは、そこに価値を認めれば、ちゃんとお金を支払ってくれる。

 事業化審査に不合格となれば、プロジェクトは解散となってしまう。OTO-nectは、他とは一線を画する音楽アプリだけに、解散となると、あまりに寂しい。審査までの残された時間を有効に活用して正式な事業として大きく羽ばたいてほしいものだ。

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