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「鬼滅」「巣ごもり」でコミック市場規模は史上最高に 電子版好調の内実を分析する(3/3 ページ)

» 2021年03月04日 08時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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 もう一方で、アプリとサービスのシェアもみてみよう。

photo 同じく、インプレス総合研究所より発行された「電子書籍ビジネス調査報告書2020」概要より引用。アンケート調査の中で、「利用している」と回答のあったアプリ/サービスについて、上位20をピックアップしたもの

 この調査を見ると、確かにKindleが強いのだが、「単品で電子書籍を単行本で売る」ことを軸にしたストアだけが上位にいるわけではなく、「LINEマンガ」「ピッコマ」のように単品版・無料作品も多く扱うところや、「ジャンプ+」「マンガワン」「マガポケ」のように、既存の大手出版社が単品視聴・雑誌的掲載を軸に展開しているところも利用率が高いのが分かる。

 特に年齢層が高いと、従来のコミックのように「電子書籍の単行本を買う」ストアの利用者が多いだろう。そうした層は「まとめ買い」もするので、全体での売り上げ・客単価は高くなる傾向にある。

 しかし、LINEマンガやジャンプ+的な「単話配信かつ一部無料で、過去のものを読みたい・先を読みたい時はポイントによる課金で支払う」という形態のものも、収益的には拡大傾向が強い。特に、若年層にスマートフォンから視聴している層が支持しているのは、こうしたアプリでの閲覧だ。

 雑誌が落ち込んでいることはすでに説明した通りだが、結果として、過去にコミック雑誌が持っていた市場と役割をスマートフォンのコミックアプリがカバーし、ある種(言葉は良くないが)「読み捨て」に近い形で市場構成をしているのではないか……と予想している。

 現状、「単話作品・ポイント型のストア」と「単行本購入型のストア」は、なかなかうまく共存できていない。双方を敵とせず、UX上も快適な形を目指すことが重要だ。次なる市場の課題は、単話を読み捨てで読んだ層をいかに単行本市場へ誘導し、固定的なファンにしていくかだ。現状はそのための導線と、電子書籍の「ライブラリ管理」の機能がどこも貧弱だ。

 電子書籍コミックの市場がマスになったものの、解決すべき課題は残されたままだ。そろそろ、こうした面倒な部分を業界全体として考える時が来ていると思う。

 読み捨てだけでは健全かつ永続的な成長は難しい。単行本市場は、紙があってさらにそこから電子書籍も作る、というハイブリッド型であり、読み方もデバイスが違うだけでかなり似ている。「電子書籍はサービスが終わると読めなくなる」とはいうものの、サービスがいきなり終わるような「資本力や信頼性が弱いストア」は、単行本市場では生き残れていない。結局Kindleが強いのは、知名度だけでなく「なくなりそうにない」という信頼性の部分もあるだろう。

 購入した電子書籍の「閲覧権の保護」もちゃんと解決すべき頃合いだ。既に大量の電子書籍が販売されたため、消費者保護の観点からいえば、そろそろ「いきなりサービスが閉じて、閲覧不可能になる」ことを市場が許さない時期が来ている。法的・業界横断的な取り組みも必要となるだろう。

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