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コクヨの紙とペン「PERPANEP」で改めて考えた、「書き心地が良い」とはどういうことだろう新連載「分かりにくいけれど面白いモノたち」(2/5 ページ)

» 2021年04月13日 15時06分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 コクヨの「PERPANEP」は、紙と筆記具の組み合わせによって、さまざまな書き心地を選べるブランドなのですが、それは決して、「自分にとっての最高の組み合わせを選ぶ」という製品ではありません。もちろん、自分のベストを探しても良いのですが、前述のように、ベストの書き心地なんて、ほんの少しのことで大きく変化します。自分にとってのベストな1本なんてボールペンがあるなら、私が「マツコの知らない世界」に出ることはなかったし、ベストの1本がないからこそ、我が家には何本ものギターがあります。それらは、あるシチュエーションの中でのベストでしかないのですが、そのシチュエーションの中でのベストであるが故に手放せない愛用品でもあります。

 つまり、「PERPANEP」が私たちに提供してくれるのは、用途によって、気分によって選べる筆記環境そのものなのです。そして、その主役になっているのは、ペンではなく紙。紙が変わることで、どれだけ書き味が違うのか、ということを、まず分かってもらい、その上で、筆記具との組み合わせを試してもらう。そうすることで、用途や気分に合わせた筆記環境というものが見えてきます。

 選ぶのではなく、組み合わせる、コーディネートすると考えれば、ノート15種類×筆記具3種類=45種類の組み合わせがある意味も分かりやすくなると思うのです。何より、ラインアップされている万年筆は440円、ファインライター(サインペン的なコクヨオリジナルのペン)が220円、ゲルインクボールペンが143円に対して、ノートはA5サイズ、60枚で各990円という価格設定を見ても、このブランドは紙が主役だということが分かります。

 紙は、「滑るように颯爽(さっそう)と書ける」というキャッチフレーズの「ツルツル原紙」、「なめらかで心地よい書き味」という「さらさら原紙」、「音を感じる落ち着いた書き心地」という「ザラザラ原紙」の3種類が用意されています。

photo 上から「ツルツル」「さらさら」「ザラザラ」の3種類の紙の、表面の様子と密度が分かる拡大写真(左)と、パルプなどの素材の組み合わせが分かる表面の拡大写真(右)

 「ツルツル原紙」は、本当に表面が平滑で、指で触っても分かるくらいツルツルです。筆圧を掛けなくてもスイスイとペンが走ります。これは、表面を平滑にしているだけでなく、密度を高くして、紙への筆記具の沈み込みを少なくすることで実現。また、ツルツルでもインクを受け止めてしっかり発色するように、パルプの種類や素材の組み合わせも工夫されています。

 一つの指針として、コクヨでは、この紙に合う筆記具として、ファインライターを提案しています。筆圧をあまり必要とせず、しかし摩擦で書くサインペンタイプの筆記具を、この紙と組み合わせることで、クッキリした線を、とても軽い力で書くことができます。その、引っ掛かりの少ない書き味は、思考を止めることがなく書き続けることができるというわけです。また、同じ理由で万年筆との相性も悪くありません。インクの濃淡が出やすいのも万年筆で書くのが好きな人に向いているかも知れません。実際、万年筆専用紙として出回っている紙の多くは、表面がツルツルしたタイプが多いのです。

 「さらさら原紙」は、帳簿用のノートなどに近い、筆記具を選ばず、軽やかに書けるタイプの紙です。3種類の中では一番「普通」に良い紙という感じです。この紙に合わせるコクヨの推奨ペンは水性ゲルボールペン。ツルツル原紙よりも密度を低くしている分、ボールを回転させてインクを紙に付けるタイプの、ある程度筆圧が必要なペンをしっかりと受け止め、なおかつ、スムーズにペンが走るさらさらした表面に仕上げてあるわけです。その滑りすぎない感触は、万年筆やファインライターで書いても、書きたい箇所にしっかりと線が引ける快適さがあります。筆記具をいろいろと替えて書きたいといった時にも、この紙はストレスが少なく、気分良く書けるでしょう。

 「ザラザラ原紙」は、その名の通り、ちょっとザラザラした表面の紙です。しかし、面白いのは、よくあるわら半紙のような、ざらざらしていて柔らかい紙ではなく、それなりの密度で仕上げてあるので、筆記具が沈み込まず、むしろ表面の凹凸による筆記音を感じながら書けるタイプの紙になっています。

 コクヨは、このザラッとした紙に、あえて万年筆を組み合わせることを提案しています。これは、万年筆という筆記具が、現代では「わざわざ」使う筆記具であり、それはつまり「手書き自体を楽しむ」ために使うペンではないかという発想の基、それならば筆記自体を楽しんでもらおうという提案なのです。この紙に万年筆で書くと、確かに「書いているという手応え」を感じます。

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