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トランスパイラ「Babel」の開発チーム、資金難で寄付を募集(2/2 ページ)

» 2021年05月12日 13時43分 公開
[新野淳一ITmedia]
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ハイテク産業の好調とは裏腹にスポンサーは減少

 ところが、2019年を過ぎ2020年を振り返ると資金調達は残念な結果になったと「Babel is used by millions, so why are we running out of money?」で下記のように記されています。

From the beginning, we knew we wouldn't have enough to pay anyone a full time salary, so Henry has been spending a lot of time attempting to get continued funding, giving talks at conferences and talking to companies. However, 2020 has negatively affected our funding, despite the tech industry's growth during this time. We lost some big sponsors, and Kai had to step down to get full-time work at another job.

(年初から、誰かにフルタイムの給料を払うだけの資金がないことはわかっていたので、Henryは継続的な資金調達を試みるために、カンファレンスで講演をしたり、企業に話を聞いたりすることに多くの時間を費やしてきました。しかし2020年はハイテク産業が成長したにもかかわらず、資金調達は残念なことになりました。いくつかの大口スポンサーを失い、Kaiは別の仕事でフルタイムの仕事を得るために退任しなければなりませんでした)

 下記がBabelの資金の推移を示したグラフです。2020年後半から右肩下がりです。

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現時点では、一時的にHenry氏、Nicolò氏、Jùnliàng氏には月額6000ドルの給与を支払うこととし、これが2021年末まで継続可能だと説明されています。

 Babelコアチームがフルタイム開発者への給与支払いにこだわるのは、「オープンソースで働くことが持続可能なキャリアパスであるべきだ」との信念に基づくからだと次のように記しています。

We strongly believe that working in open source should be a viable and sustainable career path. We should be bringing everyone up to the same level, not down. However, we need to face the fact that this would mean draining our current balance in just a few months.

(私たちは、オープンソースで働くことは、実行可能で持続可能なキャリアパスであるべきだと強く信じています。私たちは、すべての人を同じレベルに引き上げるべきであり、引き下げるべきではありません。しかし、そのためには、わずか数カ月で現在の資金バランスを崩してしまうという事実を直視する必要があります)

継続のための寄付を呼びかけ

 そしてその資金難が現実であるために、今後も健全にオープンソースプロジェクトを継続していくための寄付を次のように呼びかけています。

So, our ask is to help fund our work, via Open Collective and GitHub Sponsors. Though individual contributions do matter (and we deeply appreciate them), we are really looking for more companies to step up and become corporate sponsors, alongside our current sponsors like AMP, Airbnb, Salesforce, GitPod, and others. If it would be better for your company to sustain us in other ways, we are also open to hearing any ideas. Reach out to us directly or by email at team@babeljs.io.

(Open CollectiveとGitHub Sponsorsを通じて、私たちの活動に資金を提供していただくことをお願いします。個人の方からのご寄付も大切ですが、AMP、Airbnb、Salesforce、GitPodなどの現在のスポンサーに加えて、より多くの企業にも企業スポンサーになっていただきたいと考えています。また、その他の方法で私たちを支援していただくことが望ましい場合には、どんなアイデアでもお聞かせください。私たちに直接、あるいは電子メールでご連絡ください)

オープンソースを作る側と使う側の大きな経済的格差

 クラウドを例に挙げるまでもなくITはいまや重要な社会的基盤の一部であり、その中でオープンソースは現在では絶体に欠かすことのできない重要な位置を占めています。

 ところが、オープンソースに貢献している少なくない個人や企業は経済面で不安定な立場にある一方、それらを活用するIT大手の企業のなかには何兆円もの利益を挙げているところもあるのが現実です。

 それらは別に不当に儲けているわけではなく、法的にも、彼らが提供している付加価値からしても適切な経済的成功であることに疑いはないでしょう。

 とはいえ、両者の経済的な格差は圧倒的です。手段が適切であったとしても、結果として生じるこの格差が完全に適正適切であると言い切ることはためらいを感じます。

 一方で、オープンソースの世界を見ても、例えばトランスパイラとしてはTypeScriptのような強力なツールが登場し、あるいは全JavaScriptツールチェーンの統合を目指すようRomeのような野心的なプロジェクトが登場し、多様な選択肢が登場するとともにオープンソースのあいだでの生存競争のようなものも激しくなってきています。

 そうしたなかではオープンソースであっても、生き残るプロジェクトとなるためにはソフトウェアの開発能力だけでなく、広い意味でのマーケティング能力や集金能力といったものも否応なく求められているでしょう。

 Babelがこの競争の中、ひとまず寄付のみに頼るように見えるのは、それはそれで生き残る手段としてはややナイーブではないか、とも思うわけです。

 もちろん言うまでもなく、こうしたオープンソースの持続可能性に関する試行錯誤は、これまで数多くの人が行い、考え、実践してきているわけで、簡単に答えがでるはずもありません。

 いずれにせよそうしたなかで、いつかもう少しオープンソースに貢献する人たちへの経済的な分配が行われるようななんらかの手段や仕組みが発明されたらなと思います。

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