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ウィズコロナ時代に深刻化するデジタルディバイドウィズコロナ時代のテクノロジー(2/2 ページ)

» 2021年05月31日 21時38分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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スキルのアップデートにおける問題

 もう1つ、カナダのレポートで指摘されている側面がある。それはトレーニングの問題だ。

 デジタルインフラを通じて提供される各種サービスを使いこなすためには、基本的なリテラシーが要求される。またデジタル時代に生まれる新たな職業に就くためにも、これまでにない知識やスキルが要求される。それを獲得するための環境や意識に差があると、そこでも格差が生じ、パンデミック後に到来する新たな世界で後れを取ることになる。

 しかし一部の家庭では、子どもとデバイスを共有しているなどの理由で、特定の時間に特定のトレーニングを受けることが難しい場合があると指摘されている。公共の施設からしかネットを利用できない人は、ローカルファイルを使用するようなタイプの授業は受けられない。

 またPCでしか受講できないコンテンツでは、当然ながらスマートフォンやタブレットしか所有していない人を排除することになる。

 デジタルツールやサービスを利用する上で一定の制約を抱えている人々にも、新たな時代に欠かせないスキルを学び、アップデートしてもらうためには、各種のトレーニングがフレキシブルな形で提供される必要があるとレポートは訴えている。

 あらゆるデバイスで、好きな時間に自分に合った環境でトレーニングを受けられるようになれば、学びの機会は大きく広がるだろう。

 実はこの問題は、日本人にとってもひと事ではないことを、最近発表されたもう一つのレポートが示唆している。

 それは5月26日にコンサルティング会社のPwCが発表した、「デジタル環境変化に関する意識調査」だ。世界19カ国の約3万2500人を対象にしたアンケートで、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で加速するデジタル化の波が自分たちの仕事環境をどのように変えていると感じているかを調査」したものである。

 興味深いのは、世界における平均と、日本人の傾向の差にあるギャップだ。もちろん各国のデジタル政策には違いがあり、文化的・社会的背景といった要因も異なることから、世界的な平均と一致しないのは不思議ではない。しかしいくつかの点で、日本人の意識に大きな違いがあることが指摘されている。

 その1つが、学習機会に対する意見である。PwCの分析によれば、日本の回答者は諸外国に比べ、「学習機会が限定的で、順応できる自信がない」という傾向が見られる。例えば「テクノロジーの変化に付いていけるよう絶えず新しいスキルを学んでいるか」という質問に対して肯定的に回答している割合は、世界平均では74%だったのに対し、日本の回答は40%と大きく下回っている。

 「現在の雇用主は通常の職務外でデジタルスキルを向上させる機会を与えているか」という問いに対しても、世界平均が79%だったのに対し、日本では54%となっている。

 日本人は以前から豊富なデジタルスキルを有しており、学習したり、学習の機会を与えたりする必要が無かったからだろうか。

 しかし同レポートによれば、「パンデミックが始まって以降の仕事をするために必要なデジタルスキル」に関して、「十分なデジタルスキルがなかった」と回答したのは、世界平均では26%だったのに対し、日本では45%となっている。日本の回答者が謙虚だったという可能性もあるが、世界と比べて、特に有利な状況だったというわけでもないようだ。

 その結果、日本の回答者で「新たなテクノロジーの活用に順応できる自信」を抱いているのは42%であり、世界平均の80%から大きく乖離(かいり)している。そうした自信の欠如が、学ぼうとする意欲を失わせ、前述のような「新しいスキルを学んでいる」と回答した割合の低迷につながっている可能性もあるだろう。

 これではいくらデジタルインフラが整備され、柔軟に学習が提供されるようになっても、スキルのアップデートは遅々として進まなくなってしまう。

 さらにコロナ禍が長期化することで、人々はより将来に対してネガティブな意識を抱くようになっている。ネットアクセスやデバイスといった物理的な障壁だけでなく、こうした心理的障壁も乗り越える施策を整備することが求められている。

 「デジタルディバイド」という言葉を誰がつくったかについては諸説あるが、それは1990年代の後半から盛んに指摘されるようになり、インターネットの普及とともに重要な課題の1つとして認知された。

 つまりこの問題はおよそ20年間解決されずにおり、そこにコロナ禍という新たな状況が加わることによって、より深刻化する可能性があるわけだ。

 その解消は一筋縄ではいかないだろうが、ウィズコロナ時代を考える上で、避けては通れない問題であることは間違いないだろう。

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