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“バイトテロ”再び 8年で変質した炎上の背景を考える小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)

» 2021年06月23日 13時42分 公開
[小寺信良ITmedia]
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結局、「何の問題」なのか

 こうしたバイトテロ事件が起こると、また同じようなことが始まったのかと危惧される方も多いだろう。だが、食品を扱う場所で不衛生な行為をして面白がるような悪ふざけは、8年前の炎上が収まってからこれまでゼロだったのだろうか。単に表に出ないだけで、調子こいた子どもらの「悪ふざけそのもの」は、なくなっていなかったと考えるのが妥当だろう。

 8年前もそうだったのだが、こうした不適切行為の証拠は、多くの人がネットを探し回ることで続々と見つかった。つまりこうした問題行為は、ネット上には定期的にアップされているのだが、ニュースバリューがなければ日の目を見ない。だがいったん波が来ると、次々に発見される。そういうものではないだろうか。件のカレーチェーンのタレコミも、「“またしても”悪質なバイトテロを発見したので取り上げてください」としてツイートしていた。

 8年前の事件の後、学校は大きくITリテラシー教育に転換した。そもそも8年前の事件写真の多くは、Twitterが誰でも見られるオープンなものとは知らず、仲間内だけのクローズドなものだと勘違いしてアップしたものがほとんどだった。ろくに仕組みも知らずにSNS使うんじゃないよ、という話であり、そこにITリテラシー教育の楔(くさび)が打ち込まれた。

 一方カレーチェーンの報道を見ると、もともとInstagramの鍵付きアカウント、しかもストーリーズの投稿ということで「なぜネット上で流出したのかは不明」だというが、そんなもんオマエの仲間内にオマエを売って笑ってるヤツがいるからじゃんか、としか言えない。

photo Instagramのストーリーズ投稿画面

 ここが学校教育の限界、ということなのかもしれない。ネットの仕組みは教えた、一方で「クラス全員一致団結、仲間を信じて体育祭頑張ろう!」みたいな教育の中で、「でも結局誰も信用できないんだよね」という話をどうやって矛盾なく子供に教えられるのか。筆者が教員なら、相当悩むところだと思う。

 アルバイトを扱う食品系のお店は、今後職場にスマートフォン持ち込みを禁止したり、リスク教育をきちんとやっていくみたいな対応に追われることになると思うが、多分それでは「子どものバイトが悪ふざけをする」ことは解決できない。抜本的な解決は、食い物の現場で汚いことするなということであって、ネットに動画出すなということではないはずだ。

 結局これは、人のマネジメントの問題である。これまで流出した悪ふざけ動画は、一人で撮影したものはほとんどなく、多くは同じ年ぐらいの「仲間」の撮影である。つまり年頃の子どもが2人3人集まれば、悪ふざけするのは止められないのだ。

 だからシフトは必ず年の離れたものを1人加えて休憩入れるとか、一緒に悪ふざけする間柄になれない者を入れて組むといったことが必要だ。バイトが喜ぶようなシフトを組むのがそもそも間違いなのである。

 鍵付きアカウントからの流出も、同じくマネジメントの問題である。オマエがハマってるのを見て手をたたいて笑いそうなヤツがいるところで、自分がどういう振る舞いをすべきか。他人を動かすのではなく、もっと自分の行動をマネジメントすべきだった。

 どこにも悪ふざけできる場所がないのは窮屈だろうが、少なくとも他人がマネジメントする場所で悪ふざけは適切ではない。

 最後にこうした事件を取り上げるメディアに苦言を申し上げたいが、こうした悪ふざけをしたものに厳罰を求めたり、高額な賠償金を例に出して脅しつけるのは、抑止力としては適切ではない。恐怖で人を管理しようとするのは悪手であると、歴史が証明している。

 加えて社会の皆さんにもお願いしたいが、こうした失敗をした若者を再起不能にすることを目的とせず、これを経験として更生できるチャンスを与えていただきたい。人生1回でも失敗したらアウト、は厳しすぎる。「若いものは失敗を恐れずいろいろな可能性にチャレンジしていけ!」と檄(げき)を飛ばす一方で、「でも残機ゼロですけどね」というのは、どう考えてもクソゲーであろう。

 われわれの社会はクソゲーではないことを、若いものに示してやってはいただけないだろうか。

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