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この3年で4回の著作権法改正、いったいどこがどう変わったのか 忘れられがちな改正内容を整理する(3/3 ページ)

» 2021年08月05日 09時54分 公開
[小寺信良ITmedia]
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漫画村対策の令和2年改正

 令和2年改正があっという間に決まったのは、それだけ「漫画村」事件の衝撃が大きかったということである。これまで海賊版対策としては、「ダウンロード違法化」が映像と音楽に限り運用されてきたが、これが「全ての著作物」に拡張された。漫画だけでなく、小説や論文といったテキスト、イラストやコンピュータプログラムも対象となった。

photo 漫画海賊版サイトの漫画村

 ただ運用としては、「情を知って」の規定はそのままである。つまり、海賊版と知らずにダウンロードした場合は違法とならない。例外規定も整理された。

例えば、

  • 漫画の1コマ〜数コマなど、軽微なダウンロード
  • 二次創作・パロディーのダウンロード
  • 権利者の利益を不当に害しない「特別な事情」がある場合

は違法とならないよう配慮された。

 法改正検討の初期には二次創作やパロディーも違法化の動きがあったが、漫画協会側が「誰もそこまでやれと言ってない」として反対した結果、創作の場としての二次創作、パロディーが保護された格好だ。

 問題が整理されたものとしては、「写り込み」がある。生配信やスクショに著作物が写り込んだ場合も、正当な範囲内であれば問題ないとされた。

 正当な範囲内とは何かという話になるが、本来の撮影の目的に付随して写り込んだもの、利益を得る目的の有無などをもって総合的に判断される。以前は分離困難なものに限定という運用であったが、そこは法改正で重視されないことになった。

 例えば駅前での動画撮影で、電車の発車メロディーが入り込むのが著作権侵害になるという問題があったが、そういうものがクリアになった。

 一方で新設された著作権侵害が、「リーチサイト規制」である。これは違法コンテンツへのリンクを掲載するサイトも著作権侵害と見なすという規定で、「リンクは著作物そのものではない」とする法の網の目を埋めたことになる。

 ただ「リンク」はインターネットの根幹をなす技術であるため、何をもって法規制されるリーチサイトであるかの切り分けが問われることになる。これについては、侵害著作物へことさらに誘導する作りや文言、違法サイトの掲載量などから判断されることになる。なんとも曖昧な話だが、細かいところは裁判所判断に投げた、ということだろう。

図書館とテレビ局へのネット配信を拡大した令和3年改正

 令和3年改正は、2021年5月に成立したばかりで、まだ施行されていない。2022年1月1日から施行開始である。

 内訳としては、平成30年改正で国会図書館のデータ送信が海外の図書館まで拡大されたが、この改正では送信相手が図書館に限らず、利用者に対して直接送信できるようになる。対象は絶版資料等のデータとなっている。個人的には、廃盤になった音楽が聴けるといったサービスに期待したいところである。

 一般の公共図書館も、著作物の一部をメールで利用者に送信していいということになる。これまでは、図書館に出向いて紙のコピーを取ることは許されていたが、そこが拡大されるわけだ。ただし、図書館等の設置者が権利者に補償金を支払う必要がある。

 もう一つの目玉は、放送番組のインターネット同時配信等の権利処理に関わる部分だ。これまで放送でのみ、事前許諾なく著作物利用ができていたものを、ネットの配信にも拡大する。もちろん著作者の権利は、報酬請求権化される。

 これまで放送とネット配信では著作権処理が異なっていたため、番組制作時には放送用とネット用の2つの権利処理が必要だった。ネット用のほうがややこしいので、製作者の負担が大きかったわけだが、それを放送と同じに近づけようという動きだ。

 ネット配信には、放送と同時配信のほか、追っかけ配信や見逃し配信も含まれる。これまでネット用の権利処理というハードルを乗り越えることができた番組しかネットで配信されてこなかったが、この法整備により、ネット配信で提供されるテレビ番組も、数がかなり増えるものと期待される。

 実際に運用してみないと使い勝手などは分からない部分もあるだろうが、それでもようやく諸外国に比べて前に進むことができたといえるのではないだろうか。

 この3年で、著作権法はかなり大きな変化を迎えた。消費者にとっては気掛かりな改正もあるが、少なくとも時代が変わったことは間違いないだろう。特にコンテンツデリバリーについては、消費者にダイレクトに関わる部分であることから、ネット対応が大きく前進した部分に期待したいところである。

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