7月15日(現地時間)、米国のゲームプラットフォーマーであるValveがポータブルゲーム機「Steam Deck」を発表し、話題となった。この製品はプリインストールされているOSこそLinuxベースの「SteamOS 3.0」だが、ハードウェアとしてはAMDのプロセッサを使った「x86系PC」であり、Windowsもインストールできる。
これに限らず、「GPD Win 3」などのPCアーキテクチャをベースとしたポータブルな製品が複数登場し始めている。
これはどういう背景に基づくものなのだろうか? そして、ヒットの可能性はあるのだろうか? ちょっとその辺を真剣に考えてみよう。
この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年8月1日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もスタート。
ポータブルなゲーム機は、これまで皆独自アーキテクチャに基づくものだった。任天堂の「Nintendo Switch」は据え置き兼ポータブル、というタイプだが、こちらも、SoCはNVIDIAのArm系SoCである「Tegra X1」をベースにしたものを採用しているものの、OSを含め、プラットフォームとしては「任天堂が考えた独自アーキテクチャ」であることに変わりはない。
とはいえ、ポータブルかつx86アーキテクチャを使ったゲーム機(もしくはゲームを主体としたPC)が登場する背景には、Nintendo Switchや、そのさらに前の存在であるPlayStation Vitaの影響が無視できない。これらのゲーム機に、PCからの「マルチプラットフォームタイトル」が増えたこととの関連があるからだ。
10年以上前、ゲーム業界でもマルチプラットフォームは、まだ限定的な発想だった。予算をかけたタイトルを発売する際、リスクを軽減するために複数のプラットフォームに出すことが中心だったのだ。PlayStation 3・Xbox 360世代ではGPUがハイエンドなゲーミングPCに近いものになり、3つのプラットフォームでの展開を考えるのがリーズナブルなことになった、ということは大きい。
その後、同時にいくつもの現象が起きて、マルチプラットフォーム化はさらに進展する。
まず、スマートフォン向けの技術開発の余禄(よろく)を受ける形で、ポータブル系ゲーム機の性能も向上していった。ポータブルゲーム機(Switchを含む)とスマートフォンのアーキテクチャが似ているのは、スマートフォン向けに進化した技術を使うのが論理的であったからであり、無関係な話でない。
ゲーム開発の分野では、UnityやUnreal Engineなどの「ゲームエンジン」を使った開発が広がり、マルチプラットフォームでの開発が以前に比べて容易になった。
ゲームエンジンの普及による開発環境の整備は、「インディゲーム」という形で、大作ほどの規模ではないゲームを作る流れを加速した。
そしてインディゲームの隆盛は、「Steam」などのPC向けプラットフォームの増加とも強く連携している。そこからマルチプラットフォーム展開し、家庭用ゲーム機でもビジネスが広がるようになったことが、全体のビジネスパイ拡大を促した。
もちろん、巨大な費用をかけた大規模タイトルや、最新のハードウェアの性能を生かしたタイトルは、ポータブル系のアーキテクチャでそのまま動かすのはまだ難しい。そうした大規模タイトルが市場を牽引(けんいん)するのも事実だ。だが、ゲーム全体の中で「AAAクラスの性能を必要とする」ものの比率は下がってきてもいる。
これらの現象は今書いた順に起きたわけではない。並列に進行した結果、相互に影響を与える形で進んでいって今に至る。
そして1つの結果として、「PCゲーム的な価値観」はより拡散することになった。
ゲームをPCで楽しむ人は増えており、そうすると、「ポータブルゲーム機にPCゲームが移植されるのを待つ」のではなく、ゲームをそのままPCで動かしつつ、どこでも遊べるようにしたい……というニーズが出てくるのも当然となる。
同時に、PCのCPU・GPUの省電力化も進む。Intelの第11世代Core iシリーズなどを使えば、それなりに小さなPCで、それなりのグラフィックス性能を備えたものを作ることも可能になってきた。
結果として、それを使ったPCが「ポータブルなゲーム向けPC」として登場することになる。GPDのデバイスはその典型だろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR