GPD Win 3に代表される「小型Windows PC」としての製品と、Valveが作る「Steam Deck」では方向性が異なる。
前者はあくまで汎用のパーツを組み合わせ、OSもWindowsを使った「PC」だけれど、Steam Deckは独自のOSを使い、ValveのSteamというプラットフォームに特化した機器である。最適化の度合いは異なるが、PS4やPS5、Xbox One/Xbox Series Xと同じである。
価格的にも、Windowsを使ったポータブルゲーム機器は800ドル程度だが、Steam Deckは399ドルから649ドルとかなり安い。プロセッサも、AMDが独自に開発したZen 2+RDNA 2ベースの未発表製品。「独自のプロセッサを開発し、自社プラットフォームに合わせて量産してコストを下げる」という発想は、まさに家庭用ゲーム機と同じだ。違うのは、「Steam DeckはWindowsをインストールして使うことも想定している」ことくらいだろうか。
OS的には、Windows向けに開発されたゲームをそのままLinux上で動かす互換レイヤーである「Proton」を持ち、そのまま多くのWindows用ゲームを動かすことを想定している。どちらかといえば、OSのライセンスコストを下げてUIをゲーム向けに統一するために独自OSを使っている、といった方が正しいだろう。
非常にユニークな商品企画といえる。
ただ、これが「ポータブルなゲーム機もx86へ移行する」きっかけになるか……というと難しいし、Switchのようなメジャーな存在になれるか、というとやはり難しいと思う。
理由は性能上の限界だ。
省電力化・小型化が進んだとはいえ、十分な性能を持つx86系プロセッサは、まだまだ「大食らい」である。
Steam Deckは669g。GPD Win 3は550gとかなり重い。Nintendo Switchが398g(現行モデル)だから差はかなりのもの。携帯ゲーム機としてSwitchは相当に大柄だから、PC系のものはさらに大きい、ということになる。重量が重くなるのはバッテリー搭載量を増やす必要があるためで、Steam Deckの場合40W/時と、数年前のノートPCクラスの容量になっている。
ポータブルなゲーム機の需要は、世界的に見るとそこまで大きくない。ただ、子どもを含め若い年齢層を中心に底堅い需要はある。そこではPCゲームとの親和性はそこまで求められていない、という事情も売れ行きには影響しそうだ。
こんな話はどこも想定内だろう。Valveとしては「まだニッチでも、家庭用ゲーム機と戦えるところへ入っていく」ことがまず重要なのだろうし、そのための一手としては面白い。
Windows系ポータブルゲームデバイスを作っている企業としては一番の競合だろうが、「Windows PCとしての実用性」「今手に入ること」などを打ち出していけば戦いようもある。何より彼らは、最初からこのジャンルがニッチであることが分かってやっているのだから。
ただ個人的には、Arm対x86の一側面として注目しておきたくはある。
AppleがArm系のApple Siliconに完全移行し、QualcommもSnapdragonで動くWindows PCの開発を加速している。スマートフォンではArm系が強いが、Chromebookだとx86とArmが入り交じる。ゲーム機の場合、据え置きはx86系が主軸になったが、ポータブルはどうだろう? 今はArm全盛だが、まだまだ分からない。
個人的には「適材適所」として、据え置きとポータブルでアーキテクチャが違う時代が続くと読んでいるが、2年後には変わっていても不思議はない。
数年のうちにx86系プロセッサの性能・消費電力バランスが変わり、もっともっと小さいものを作れるようになる可能性はあるが、その時にはArm系も進化している。どちらが好まれるかは想像に頼るほかない。
その流れを読むためにも、Steam Deckの動向は注目しておいて損はない。
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