現在のネットメディアの中で、もっとも勢いがあるものの一つが「YouTube」であることは間違いない。
では、YouTubeは現在の日本においてどんなメディア特性を持っているのだろうか? ここ最近、取材や調査資料などで得られた情報を総合すると「ニッチの集合体であるが、サイト単独でいえば地上波放送1チャンネルに相当するマスになった」といって良さそうだ。
それはどういうことで、どのような影響をもたらすのだろうか?
今回はその点を考察してみた。
この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年8月30日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もスタート。
きっかけは、TVS REGZA(旧・東芝映像ソリューション)取材中のことだった。
筆者は毎年同社に行き、同社・ブランド統括マネジャーの本村裕史氏をはじめとする関係者に長時間の取材をしている。年1回のこともあれば数回のこともある。2021年の分については、AV Watchで記事化している。
それなりに整然と話されたインタビューのように見えるが、実際はそんなことはない。本村氏とのインタビューは非常にラフなもので、雑談的に脱線することもあれば、オフレコの内容についてお互いに意見を言い合うこともある。数時間にわたって「その時お互いが感じていること」をぶつけ合うブレストのようなものだ。
そんなインタビューの中で、今回かなりの時間を割いて議論していたのが「テレビとネット動画」の関係である。
4K放送はスタートしているが、その顧客誘引効果はさほど高くない。むしろ近年は、新しいサービスやコンテンツが増えたこともあり、ネット動画が「テレビを買い替える」一つの動機になっている。
では、実際にどう使われているのか?
「テレビでのネット動画利用率は劇的に上がっている」と本村氏はいうのだ。
REGZAのようなネット接続機能を持つスマートテレビは、利用許諾のもと匿名化した上で「どの機能がどのくらい使われているか」という情報を取得している。そのデータによれば、テレビにおけるネット動画の利用時間は「1日で1.5時間」にまで達している。
1.5時間も視聴されているということは、地上波のキー局1つ分に相当する。本村氏は「NHK1局よりも長くみているじゃないか、と驚いた」と話す。
ネット動画はスマホやPCが中心で、若い層が見ているといわれる。それは確かにそうなのだろうが、テレビにおいてもそれだけ視聴時間が伸びているということは、明確に「メディアとして利用が定着している」事実を示している。
一方で、見られているサービスは何なのだろう? 本村氏は比率こそ教えてくれなかったが、「圧倒的にYouTube。そこからずっと落ちてAmazon Prime Videoで、さらにちょっと落ちてNetflix」と話す。
これは筆者の感触とも合致する。
Amazon Prime VideoやNetflixなどの「有料サービス」は、コンテンツの質や話題性もあって注目されやすい。一方で、利用者数はまだそこまで多くない。
前述の2サービスはシェアトップクラスであり、どう低く見積もってもそれぞれ500万世帯以上が利用している。とはいえ日本には4885万世帯(2020年現在)あるので、まだ1社あたりの世帯加入率は1割を超えたところである。
衛星放送やケーブルテレビの有料チャンネルサービスの規模をようやく超えてきたところにすぎない。米国の場合、トップシェアを持つNetflixで世帯加入率が50%を超えており、影響力が相当異なる。
一方YouTubeは、無料で誰でも見られる。有料配信との関係は、テレビの地上波放送と衛星放送の有料チャンネルに近い。スマホなどで日常的に見ていて、それをもっと楽に見られるからテレビで……という発想はよく分かる。
もう1点、テレビにおけるYouTubeの強さを感じさせるのが「Android TVの認知度」である。以下は販売店サイドから聞いた話だ。
「スマホでAndroidという名前が浸透していることで、Android TVであれば同じようなことができる、とすぐに理解してもらえる。リモコンにボタンもあるし、YouTubeがスマホと同じように見られる、ということの理解が早い」
なるほど。TVS REGZAは2021年からAndroid TVを採用したのだが、その理由も「Androidという存在の認知度」(本村氏)だという。
テレビでAndroid向けのゲームなどがヒットした、という話は耳にしたことがない。ということは、それだけ「検索してYouTube動画が見られる」ことの価値・認知度が高まっている、ということなのだろう。
その結果として「NHKを超えるほどの時間見られている」というデータが生まれつつあるわけだ。
それを受け、本村氏とは将来どんなテレビがあり得るのか……みたいなことを相当議論したのだが、その内容はオフレコなのでご勘弁を。
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