広島大学の研究チームは9月24日、生物の先祖がどのように増殖する能力を得たのかを実験を通して解明したと発表した。太古の地球で原子生物につながったとされる分子の集合体が増殖する過程を初めて解明したという。
生命の始まりを論ずる仮説に「化学進化」がある。これは、単純な小さい分子から複雑で大きな分子ができ、それらが集まって増殖する分子集合体になり、生命誕生の出発点になったとするもの。ロシアの生化学者であるオパーリンが1920年代に提唱し、高校の生物の教科書でも紹介されている。
現在まで、この仮説を実証する研究が進められてきたが、小さな分子から増殖する分子集合体がどのように作られたのかは約100年間解明できず、「化学と生物学の溝」となっていたという。
この謎を解明するため、研究チームが注目したのは環境の違いであった。これまでの研究では、小分子から高分子を作る環境は高温・高圧で、高分子から分子集合体を作る環境は常温・常圧がほとんどだったという。研究チームは、同じ温度と圧力下で、高分子の形成と分子集合体形成を行った。
小分子に選んだのは「チオエステル化シスチン」という物質。これを還元剤を含んだ水中に添加すると、自発的に液体のつぶである「液滴」を形成した。この液滴の組成を調べたところ、ペプチドを含むコアセルベート液滴だと分かったという。コアセルベートは、オパーリンが原子生命のモデルとして提唱した物体で、細胞の原型と考えられている。
ペプチドは、液滴の界面と内部で生成されていた。これは、小分子からコアセルベート液滴が一度形成されると、液滴が積極的に小分子をエサとして取り込み、自らの構成物質をその内部で生産しながら成長していることを意味するという。エサの小分子を添加し続けると、液滴は何度も成長と分裂を繰り返し、増殖した。
増殖したコアセルベート液滴はRNAやDNAなどの核酸を濃縮でき、核酸を取り込んだ液滴は外環境の刺激に対して生き残りやすくなることも判明したという。
この研究の手法では、エサを水中に添加するだけで、ペプチド液滴が自発的に増殖するため、ねずみ算的に増やすことができる。そのため生命起源研究以外にも、ペプチドからなる分子集合体の生産技術にも、ブレークスルーが期待できるとしている。
この研究は、科学雑誌「Nature Communications」に9月24日付で掲載された。
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