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音楽ファン歓喜の時代がやってきた! 人類が「空間オーディオ」を手に入れ、ステレオを卒業する日が小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

» 2021年10月26日 12時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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実際何が起こっているのか

 執筆時点で、Amazonが提供する空間オーディオが再生できるのは、スマートフォンアプリに限られる。Amazon MusicアプリはPC・Mac版も存在するが、それらでは空間オーディオはサポートしていない。スマホアプリ上で音質を示すバッジをタップすると、オーディオ品質が今どこでどうなっているのかが確認できる。また従来のステレオ再生にも切り替えられるようになっている。

 スマートフォンを利用する限り、ヘッドフォン/イヤフォンがBluetoorh接続でも有線接続でも、空間オーディオとして再生できる。つまりスマートフォンアプリ側でDolby Atmosと360RAをデコードして2chにリマップ、という言い方が正しいのかどうか分からないが、それで伝送するということである。

photo Bluetoothで接続した場合
photo 有線ヘッドフォンに接続した場合

 Bluetooth接続ではヘッドフォン/イヤフォンだけでなく、Bluetoothスピーカーでも「空間オーディオ」での再生が可能だ。スマホ本体のスピーカーで再生する場合も同様である。おそらくヘッドフォン/イヤフォン向けにデコードしてあるため、スピーカーでも正しく聴こえるかどうかは保証しないが、一応ステレオとは違う音場で再生されているのは確認できた。

photo スマホ内蔵スピーカーでも再生はできる

 極端な例では、Bluetoothのモノラルスピーカーに対しても、空間オーディオでの伝送はできる。ただしこの場合は、ステレオ伝送に切り替えても違いがない。つまりアプリ側が検知しているのはスマートフォンのデコードまでで、それから先は何が受け取ろうが、取りあえず空間オーディオデコードのストリームを出す、ということのようだ。

 一方で、最初から3Dオーディオに対応していたEcho Studioに対してはどういう表示になるのか。この場合は、オーディオ品質での機能は利用できなくなる。Echo Studioでの再生は、スマホアプリからキャスト、つまりスマホからストリームを伝送するのではなく、Echo Studioが直接ネット回線からストリームを受信することになるので、スマホ側としてはどうなってるか知らん、ということである。従ってキャスト中は、ステレオへの切り替えも機能しない。

photo Echo Studio(amazon 3Dという名前でグループ化)へのキャスト中画面

空間オーディオが解決する問題

 中段でも少し触れたが、Amazon Musicアプリでオーディオ品質のバッジをタップすると、空間オーディオとステレオを切り替えられる。つまり、従来のステレオ再生と空間オーディオではどのように聴こえ方が異なるのか、簡単に比較できるようになった。対応楽曲は最初から空間オーディオしか聴けないというのなく、効果が比較確認できるというのは大きい。

 実際に聴き比べてみると、ステレオの場合はステレオミックス特有の集合の強さというか、パンチ力はあるが、どうしても耳と耳の間で各楽器がぎゅうぎゅうに詰まった感じがする。一方空間オーディオの場合は、各楽器やコーラスパートの間が広く空いて、それぞれが何をやっているのかが分かるようになる。どこから音が聴こえるのか、ステレオミックスと比べると定位感は曖昧だが、音が滲んでいるわけではない。やはり音像が空間に配置されたというべきであろう。

 これは、ヘッドフォン/イヤフォンで起こる「頭内定位」を解消する方法として有効だ。頭内定位とは、空間を通さず直接耳からステレオミックスの音楽を聴くことで、空間的ではなく頭内に音が定位してしまうという問題で、スピーカーで聴いた場合との大きな差として長年課題になっていたものである。

 頭内定位解消においてダイナミック・ヘッドトラッキングが必要かどうかはまた別の議論はあるだろうが、少なくとも立体音響としての空間オーディオは、頭内定位の問題解決に大きく寄与する。現時点でDolby Atmosや360RAへのリマスタリングは人の手に頼っており、全ての音楽が空間オーディオ向けにリマスターされるわけではないが、これまでも頭内定位解消のために、ステレオミックスからプロセッサ処理で3D処理する試みは長年続けられているところだ。やがてはスマホのプロセッサパワーを使って、ステレオから空間オーディオへ自動変換できる時が来るかもしれない。

 オーディオ業界は以前から4chや5.1chなどのサラウンド化に取り組んできたが、映画ほどには定着しなかった。ディスクリートにスピーカーを配置するのが大変で、気軽にセッティングできない、場所を変えて楽しめないという問題があったわけだが、ここにきてようやく気軽に試せる環境ができたことになる。人類がようやく、2chステレオの呪縛から卒業できる日が近づいているのかもしれない。

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