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PC互換機はIntelだけではない ジョブズのいないAppleが進めたPRePとCHRP“PC”あるいは“Personal Computer”と呼ばれるもの、その変遷を辿る(3/4 ページ)

» 2021年10月30日 08時00分 公開
[大原雄介ITmedia]

 そんなわけで、AIM AllianceはPowerPCベースの“PC”のために必要な項目を標準化するための作業に取り掛かる。この結果として生まれたのがPRePである。

 このPRePのSpecificationの目次の一覧が写真3である。

photo 写真3:目次一覧。字が小さいのはご容赦いただきたい。当時のことだから、ISAとかPCMCIAなどのI/Fを使うことも考慮されている。Appendix HのTaligentがなんとも言えない

 まず基本的なハードウェア構成を紹介した後で、メモリマップやI/O空間、リソース競合回避、初期設定や自己診断機能、Bi(Big、Littleの両方の)-Endian対応、マルチプロセッサ対応、電力管理(パワーマネジメント)やI/Oバスの構成など多岐にわたっており、ハードウェアベンダーもソフトウェアベンダーも、このSpecificationに準拠した形で製品を用意することで「PowerPCベースのPC」が構築できるようになった。

 この流れに、Microsoftも乗った。同社はWindows NTをx86にとどまらず、広範なプラットフォーム上で稼働させることを想定していた。その同社にとってPRePは非常に都合が良い話であり、Windows NT for PowerPCをこのPReP(のちにCHRP)上で動作するように開発した。似たことはSun Microsystemsも考えており、Solaris for PowerPCがやはりPRePに移植されている。

 こうした複数のOSを移植するための便宜を図るため、PRePではBTASとRTASという新しいソフトウェアコンポーネントが提供されることになった。BTASはBoot-Time Abstraction Software、RTASはRun-Time Abstraction Softwareの略である。

 もともとx86の場合、次々に進化していくコンポーネントと既存のソフトウェアの互換性を取るために、BIOS(Basic Input Output System)がどんどん高性能化というか複雑化していき、それでも足りないからAPICやMPS、ACPIといった新しいI/Fを次々に追加することで対応していった。

 そんなx86に対し、PowerPCではゼロベースから「PowerPCベースのPCを構築するために、どんな要素が必要か」を考えてそれに対応する仕組みを用意するとともに、製品差別化要因となりえる細かな違いなどをOSから見えないようにする抽象化レイヤーを用意したことが、この後のPCに少なくない影響を与えた。

 PRePは1995年、CHRP(Common Hardware Reference Platform)に進化する(写真4)。

photo 写真4:CHRP Specificationの表紙。これ以外にI/O Device ReferenceというSpecificationもある。こちらもIBMから入手可能

 PRePとの差は、AppleがPower Macintoshを発売した事に対応して、これへの対応を追加したことである。そしてPReP/CHRP対応のハードウェアも次第に市場に登場しつつあった。1995年7月、IBMはPowerPC対応のThinkPadであるThinkPad 820/850を発表する。これに先立ちThinkPad 800という製品もあったが、Workplace OSの開発中止に伴って発売がキャンセルされた話はこちらに掲載されている。ThinkPad 800はともかく、ThinkPad 820/850はAIX 4.1.3とWindows NT 3.51、さらにSolaris 2.5.1も動いた(ThinkPad 800はMS-DOSやOS/2もサポート予定だった)。構成はともかく、MS-DOSをはじめとするいわゆるPC向けソフトウェアが稼働するというので、これらを広義のPC向けに含むことに異論がある方は少ないだろう。

 ちなみにこの当時、IBMがシステム開発用に配ったPReP対応のデスクトップ機が、なぜか筆者の手元にも回ってきた。その後米国転居の際に邪魔なので妻の祖父の家に持ち込んでしまっておいたら行方不明になってしまったので写真とかをお見せできないのがちょっと残念なのだが、CPU周りがPowerPCになっていた以外は「普通の」AT互換機といった構成であった。

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