家電との連携機能もないなら、BALMUDA Phoneは誰のためのスマホなのだろうか。想定する購入者を問われた寺尾社長は「バルミューダファン、とも限らない」という。「当然ながら、家電で気づいてきたブランドとお客様とのつながり。気にはしていただけると思う。だが買っていただけるかというと、ちょっと別の軸で考えている」と述べている。
BALMUDA Phoneは、スマホの利便性を享受しつつも依存しすぎない人のためのデバイスという側面を持つ。寺尾社長は「スマホというあまりにも便利なものにくぎ付けになりすぎている。私も気付けばWebサイトを無駄見していた」と振り返り、「スマホは、人がよりよく生きるための補助道具だと考えている。この考えが少しでも気になって、耳を傾けて、手に取っていただける方が購入の候補に入ると思う」とターゲット像を語る。これは、昨今のトレンドに反して小型ボディーを採用した要因でもある。
スマホ市場への異業種・小規模メーカーの参入は、過去も多くの例がある。それらの企業はことごとく撤退してしまった。具体例を挙げれば、VAIOの「VAIO Phone」、トリニティの「NuAns NEO」、UPQの「UPQ Phone」などが挙げられるだろう。
バルミューダがその轍を踏むことになるのか、あるいはスマホ市場のニッチ的存在として生き残っていけるのかは、そのソフトウェアの作り込みにかかっているといえる。
BALMUDA Phone単体で見ると、実のところそこまで不合理なビジネスではない。バルミューダが決算で公開した、携帯端末事業に関する予測がヒントになる。同社によると、BALMUDA Phone単体でかかった研究開発費は「5.6億円」だという。
一方でバルミューダでは、2021年度(1月〜12月)の通信端末事業の売上高を27億円と見込んでいる。11月末に販売されるBALMUDA Phoneだけで、2カ月で27億円は売り上げられると考えているわけだ。
それでは、BALMUDA Phoneの27億円という売上に見合うほどの台数を売れるのか。バルミューダのソフトバンクへの納入価を、仮に直販価格と同じ10万4800円と仮定して計算すると、およそ2万6000台を販売すれば、27億円に達することになる。
調査機関のMM総研は、2021年通期のスマートフォンの出荷台数は3393万台と予測している。この市場規模の中で、BALMUDA Phoneが仮に3万台を売ったとしても、市場シェアでいえば0.08%。つまり、限られた台数を販売するニッチな市場としては、十分に広い市場があるということになる。
そして、ソフトバンクでのBALMUDA Phoneの販売価格は14万3280円と高価だが、実際の販売時には、負担感はもう少し軽減されるのではないかと筆者は考えている。BALMUDA Phoneはソフトバンクの「新トクするサポート」の対象機種となっている。このプログラムを利用すれば、2年後の返却を条件に、製品価格の半額の負担で2年間の利用が可能となる。
もちろん、他のメーカーのスマホも同様の割引販売制度があるため、BALMUDA Phoneを選ぶ積極的な理由が必要となる。筆者は「持ちやすさ」がその理由となり得るのではないかと考えている。単純にスペックや性能で比較するとBALMUDA Phoneに勝ち目は無いが、店頭で手に取ったときのフィット感を気に入って、このスマホを選ぶユーザーは一定数はいるだろう。
手に取って試せる環境を用意するという点でも、全国のソフトバンク取扱店で実機を展示することが、BALMUDA Phoneの販売戦略においては重要な要素となるだろう。
石ころのような形のBALMUDA Phoneの発表は、バルミューダのスマホ事業参入における重要なマイルストーンとなるが、同時に長期的なスマホ事業の展開の布石ともなっている。
寺尾社長によると、BALMUDA Phoneに続く「2号機、3号機」もデザインの設計段階に入っているという。次のモデルは「スマートフォンとは呼ばれないもの」としているが、動画を見やすく、大きな画面の製品とヒントを明かしている。順当に考えると、持ち運びやすいAndroidタブレットか、あるいはAndroidアプリが使えるスマートディスプレイのような製品だろう。
ソフトバンクとバルミューダのパートナーシップは中長期的に継続していく方針だ。寺尾氏は「ソフトバンクとは今後もいろいろな展開を。できればびっくりするような商品展開をしていきたい」と話している。ソフトバンクにとっては、5Gの浸透後に来るであろう“家電のスマート化”のトレンドにおいても、バルミューダとの関係性は価値を生む可能性がある。
発表においては、寺尾社長とバルミューダが、スマートフォン市場へかける熱意が伝わってきた。その一方で、公開情報を読み解くと少なくとも初代BALMUDA Phoneを販売であれば、空回りではなく現実味のあるビジネスモデルを描いていることも見えてくる。
ただし、バルミューダにとっての困難は発売以降に待ち受けているだろう。スマホメーカーにとってアプリのサポートは、短期間で打ち切れるものではない。製品サイクルが早いスマホ市場の中で、定期的に新しいハードウェアを提供しつつ、OSバージョンアップへの対応なども、積極的に続けていく必要がある。アプリやハードウェアのバリエーションを増やすほど、継続的にかかる負担は大きくなる。
ニッチであろうと継続的なブランドとして生き残っていくためには、購入者にとっての満足度が重要となるのは言うまでもないことだろう。BALMUDA Phoneを購入したユーザーの評価こそ、ブランドの今後を占う試金石となりそうだ。
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