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装着者の作り笑いを見抜く眼鏡型デバイス、慶應大やNTTが開発Innovative Tech

» 2021年12月16日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 慶應義塾大学大学院理工学研究科杉本研究室とNTTコミュニケーション科学基礎研究所による研究チームが発表した「反射型光センサアレイを用いた眼鏡型装置による作り笑いと自然な笑いの識別」は、反射型光センサーアレイを使った眼鏡型デバイスによる自然な笑顔と、作り笑顔の2種類の笑いを識別手法についての研究だ。

反射型光センサーアレイを搭載した眼鏡型デバイスを装着して笑う様子。左が作り笑い、右が自然な笑い

 研究では、装着型かつ非接触のセンサーとして反射型光センサーアレイを組み込んだ眼鏡型デバイスを使い、快感情を伴う自然な笑いとしての動画よって誘発した笑いと、快感情を伴わない作り笑いとして、コンピュータからの指示によって意図的に作らせた作り笑いとを区別できるかを検証した。

 眼鏡型デバイスは、眼鏡フレームにIR LEDとIRフォトトランジスタで構成する16個の反射型光センサーを取り付けている。センサーは小さいため、眼鏡のフォームファクターを損なわずに実装できる。

 表情筋の動きによって皮膚変形が生じると、このセンサーと皮膚表面の間の距離に変化が生じ、この距離によって反射強度が変わり表情を識別する。計測データはワイヤレスでコンピュータに送信する。

眼鏡フレームの内側に16個の反射型光センサーを搭載する

 実験は21〜25歳の12人の被験者を対象に行った。自然な笑いと作り笑いの識別には、幾何学的特徴と時間的特徴の2種類の特徴量を使用。それぞれの特徴量は、笑いが生じた際のセンサー値の変位とその変位にかかった時間から抽出した。これらの特徴量を使い、機械学習(SVM)と人間の視覚的判定による検証を比較した。

実験時のセットアップ
実際に取得したセンサー値の例。上が作り笑い、下が自然な笑い

 結果は、人間の視覚による識別率は、静止画を使った場合は平均71.5%、動画を使った場合は90.2%の識別精度となったのに対して、幾何学的特徴と時間的特徴の両方を使用した機械学習(SVM)の場合は94.6%の識別精度を示した。

 人間が動画を見て識別した場合の精度とほぼ同等かそれ以上であったことから、これらの結果は、眼鏡型デバイスは表情の幾何学的な違いと笑い表出時の時間的な違いにより、自然な笑いと作り笑いを高い精度で識別できることを示すという。

出典および画像クレジット: 齊藤千紗, 正井克俊, and 杉本麻樹. "反射型光センサアレイを用いた眼鏡型装置による作り笑いと自然な笑いの識別." 情報処理学会論文誌 62.10 (2021): 1681-1690.



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