刃の立て方1つを取っても、高い方、つまり手前側の刃はやや寝かせ気味に、低い方、つまり奥の刃は立ててあるのだ。
これは、高い方から低い方へ押すことで大根をおろす、この片方向で使うおろし金ならではの工夫だ。要するに、高い方、つまりおろし始めは、速度は出ないが力が入るので、刃を寝かせ気味に、低い方は加速度が付いて速度はあるけど力は抜けるので刃を立て気味にすることで、よりスムーズに均一におろせるというわけだ。
刃はV字状に並び、刃の目立ての根元から穴が空いている。この形状のおかげで、おろした大根が水分を含んだまま落下し、結果、ツユが出にくくなる。その刃も、大きなものから小さなものまで、6種類がランダムに配置されている。
「刃が大きいと、歯ごたえのある大根おろしができるんですよ。でも大きいのばかりだと、今度は抵抗が大きくなって、おろしにくいし、力を入れすぎて組織をつぶしたりしてしまうことがあるんです。それで、大きさが違うものを入れてるんです」と、シゲル工業の創業者であり会長の藤田茂氏。
「どうして大根おろしはツユが出るんだろう、という疑問からスタートしました」と藤田会長。さらに、現在は、プラスチック製のおろし金に対抗できる価格で作れないかということを考えていて、かなり案も出てきたという。
このような、アイデアを形にしていく技術とノウハウは、まだ、燕三条の金属加工技術が発展する以前に刃物の熱処理を覚えた、藤田会長の得意技のようだ。
「当時は、熱処理を目感でやってたんです。でも、それでは1000度の中の20度、30度の変化を見極めなければならないステンレスなどの素材の熱処理は出来ないんです。だから、昭和30年代の前半には、燕市、三条市あたりでは、そういう素材は扱っていなかったんです。われわれはそれを始めたんですけど、難しくて」と藤田会長。日立金属の講習を受け、どうにかノウハウを会得したのが18歳の時。そこから熱処理の研究に没頭し、その知識を生かして始めたのが刃物の製作だった。
「まだ熱処理を理解する前に発注された、ナット作りの苦労から考えたら、どんな製品も簡単なんですよ」と藤田会長は笑う。
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