矢崎 私個人に関しては、「新しい媒体で編集長をやる」みたいなのは考えてないんですよ。
私、2周したんでね。
メディアも試行錯誤しながらアスキーをやってきて、紙からWebメディアの転換期を、本当にいろんなことにトライしてやってきて、この5年間でEngadgetはすごく洗練されたカーブで回れたように自分では思っているんですよ。
業界のいろんな側面を見ることができて、体験することができて。
未練がないかと言われると、超ありますよ。
西田 まだメディアの仕事はしたい?
矢崎 だって、楽しいし、みんなのことが大好きだしね。会見でみんなに会えるのもすごくテンション上がるし、発表会はわくわくするしね。
楽しいんだけれども、やり切った感も同時にあるんですよ、すごく。
西田 そうか。
そこはたぶんね、ライターと違うところかもしれないですね。
これは以前にもそういう話になったんですけど、僕ってたぶん、できれば死ぬまでずっと、同じようにライターをやっていたいんですよね。何周かした、という気持ちがまったくない。
でも、編集者とは感覚が違うのかな……? というのは、いろんな編集者と付き合っていて思うところではあります。
矢崎 死ぬまで書いてたい、って、山根さんが同じこと言っていた(笑)。
冒頭でもお話ししましたけど、私はとにかく、“小さなコンピュータと人との関わり”みたいなのが、すごくわくわくして。
幸い、スマートフォンの略称、スマホの名づけ親として認知していただいているんですけれども。
スマートフォンと人の関係性、コンピュータ、イコール“ネット”なんだけど、あまりにも身近になって、ちょっと緊張感があるな、って思うんですよ。
スマートフォンの中にすべてが入っている。機種変のしかたが分からないから機種変できない人がいたり、なくしたらどうしよう? とドキドキしたり。
西田 人生がスマホにかかっちゃっているみたいな緊張感、という意味ですか。
矢崎 そうですそうです。
ほとんどの人が、スマートフォンにちょっと恐怖感というか、あんまりリラックスして接することができてないと思っていて。
本来スティーブ・ジョブズがMacを作った時とかって、人にとって自転車みたいなツールのようなニュアンスもあって……。
西田 ある種、もっといい加減な部分がある。気楽な部分がある。
矢崎 そう、気楽!
まさに気楽な、よりリラックスした関係性みたいなのを、構築できないかな、できたらいいな、というふうに考えていて。
それがね、具体的に私がこの先どういう仕事をするか、というのにどう関わるかというのはまだ具体的にはなっていないんだけれども。
ここまで最先端で、「新しいiPhoneだ! 新しいスマートフォンだ!」とやってきて、振り返ってみれば、なんだかすごく、いろんな人を置いてきたな、と思っていて。
西田 なるほど。
矢崎 だから、何かもっと、身近な人を含めて、小さなコンピュータ、身近なコンピュータとかね、インターネットが人生をもっとリラックスした、心地よくアシストしてくれる存在になるような仕事をしたいんですよ、僕。
それは文教なのか、あるいはものづくりなのか、分からないですけど。より良い世の中になるため、みたいな、そういう工夫がしたい。
ただ、自分の中のモチベーションとしては、キャリアの後半にけっこうものづくりに携わってきて、そこがやっぱりいちばんテンションが上がるし、わくわくする。
ものづくりも表現だと思うんだよね。
表現の一環としては、ものづくりの企画をサポートするとか、助言するみたいな形で、最前線で小さいコンピュータの発展を見続けてきた私だからできること、提案できることもあるのかな、と思いながら。
西田 光るUSBケーブルを作った男でもあるわけじゃないですか。
矢崎 そうですね。
西田 アスキーの週刊の付録として作られたものが、いつのまにかコピー製品になり、深センを通じて世界中に売られるようになった男でもあるわけですよね。
これはライターと編集者の違いだな、といつも思うんですけど、ライターって文章しか作ってないんですよ。極論すると。
でも、編集者って、文章だけで作っているわけじゃないんですよね。その時のカルチャーみたいなものの切り出しをやっている部分があって。
それって、モノだったりもするし、紙面づくりだったりもするし、Webで言うならば、Webにどういう記事を今週、このタイミングで入れるか、ということの判断だったりするわけじゃないですか。
同じメディアに関わっていても、実は違う側面から山登っているようなところがあって。
矢崎 ええ。
西田 矢崎さんは、やっぱりライターじゃない側面から登っているんだな、という印象がすごくあるんですよね。
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