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Engadget日本版はなぜ終わったのか、最後の編集長・矢崎飛鳥氏に聞く(第3回) 編集スタッフの「次のフェーズ」はどうなるのか(3/4 ページ)

» 2022年05月24日 16時44分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

雑誌とカルチャーとモノづくり

矢崎 ああ、そうですね……今「カルチャー」と言っていただけてすごく嬉しかった。

 私、父が編集者だったんですけれども。われわれより10歳から20歳ぐらい上の世代の人だと刺さる、『話の特集』という、まさにサブカルチャーの先駆けみたいな月刊誌の編集長を長年やっていて。私は当時、父がどういう仕事をしていたか、幼かったからあんまり分かってなかったんですけども。

 ただ、おいおいね、家に来ていた人が凄い人たちだった、ということがわかって……。筑紫哲也さんだったり、永六輔だったり、和田誠さんだったり、という人達が、けっこう普通に、家族ぐるみで来ていた。

 そういった、カルチャーを背負っている人達の輪の中に入って、父の背中を見て成長して。

 私は、父を見たから編集者になったわけでもなんでもなく、ゲームが好きだからファミ通に行って、パソコンが好きだから週アスに行って、みたいな感じ。「お父さんも編集者だから」ってよく言われるんだけど、実はそうじゃない。

 自分が好きだから編集の道に行っただけなんだけれども、でも自分の中の根底にある、すごくサブカル気質なところは、たぶん父親の影響なのかなと。

西田 それはそうだと思いますよ。

 僕らがPC誌を作っていた時代もそうなんだけれども、雑誌がカルチャーを切り取っていた時代というのが明確にあったはずじゃないですか。その、いちばん元気があった時代に『話の特集』があって。

 PC誌というのはその後にやってきて、新しく出たものの、表面をうまくみんなに紹介しているような部分があったじゃないですか。

矢崎 そうなんです。

西田 なので、それはやっぱり、なんだかんだ言ってつながっていたんですよね。

 Webをやっていてちょっと残念だな、と思うのは、刹那的だ、ってところですかね。雑誌に比べると。

矢崎 雑誌の時はね、本当に議論して……。

 週刊アスキーの編集者だった赤澤さん(賢一郎氏。元週刊アスキー編集者で、「アカザー」の愛称で知られる)という、半身まひで車いす生活になっちゃった編集者がいるんだけれども。彼が水口(幸広)さんという漫画家の人と、週刊アスキーでずっと連載していた記事が休載になって。

 で、それの続きみたいなのをEngadgetでやったんですよ。

 その時に、ちょっと打ち合わせをやったの。オンラインで。

 その時も、ものすごい議論するんですよ。赤澤さんと水口さんが。それもうケンカじゃん?みたいな。

 でも終わってみて、「このぐらい議論して雑誌作っていたよね」と思って。

 懐かしかった。

 こういう編集者いなくなったな、と思いながら。

 ものづくりって本来はこうあるべきなのかもしれないけど、なかなかね、今は物量の時代で、1つのコンテンツにここまで熱量をかけられないから。

西田 仮に、このあとにね、矢崎さんがメディアの世界から別のところに行くのだとしても、そういう、ある種の個性みたいなものって、出しようがあると思うし、出すのが楽しいんだと思うんですよね。

矢崎 それはね、出ちゃうと思いますよ。

 僕は、週アスをやっていてもEngadgetをやっていても、付録を作っても、キーボードを作っても、自分の同じ、自分の中から出ている。全部、同じ僕のDNAが入っている。表現だと思っているから。この先も絶対、なんかそういう感じになると思う。表現をやめる、ということは絶対ないから。

西田 それ大切ですよ。

 「ライターに向いている人とか、編集者に向いている人はなんですか」と言われて、あまり答えられることはないけど、1つあるとすれば、別に口下手でもなんでもいいけど、自分が面白いと思ったことを人に伝えるのが好きな人じゃないと向かないよね、とは思う。

矢崎 だから、やっぱりパッションですよね。

 みんなを驚かせたい、わくわくさせたい、という気持ちはすごくあるから。絶対何かやりますよ。

photo 矢崎飛鳥氏。「さよならEngadget & TechCrunch」イベントの歴代編集長座談会にて

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