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“インボイス制度”に見込むビジネスチャンス ARR40%増のマネフォに戦略を聞く(1/2 ページ)

» 2022年05月26日 12時00分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 2023年10月に始まる消費税の適格請求書等保存方式(インボイス制度)。所定の要件を満たす請求書を保存しなければ消費税の控除を受けられなくなる同制度の開始に備え、さまざまな企業が対応の準備を進めている。

 一方、経理などバックオフィスの業務を支援するSaaSを提供するベンダーにとっては、サービスを展開するチャンスにもなっている。2021年12月〜22年2月のSaaS事業全体のARR(年間経常収益)が、前年同期比40%増と成長したマネーフォワードもその1社だ。同社はインボイス制度を一つの指標に定め、新しい施策を展開している最中という。

 「業界全体でバックオフィスSaaSが伸びる中、特に23年10月のインボイス制度開始は一つ大きなメルクマール(ゴールや指標)になると考えている。現在はそこに向け、積極的な投資を進めている最中」──マネーフォワードの山田一也CSO(最高戦略責任者)はインボイス制度への対応状況についてこう話す。インボイス制度に見込むチャンスや今後の戦略を山田CSOに聞いた。

そもそもインボイス制度って何?

 インボイス制度は、消費税の納付や控除に関する新しい仕組みだ。特定の要件を満たした「適格請求書」(インボイス)を保存しなければ、発注者が消費税の「仕入税額控除」を受けられなくなる。仕入税額控除とは、事業者が消費税を納税するとき、商品などの仕入時に支払った消費税を、売上時に受け取った消費税から差し引いて、納税額を算出することを指す。

 これまでは、請求書と帳簿を保存していれば仕入税額控除を受けることができた。しかし今後は、インボイスと帳簿を保存していなければ受けられなくなる。つまり税控除を受けるには、インボイス=法制度上の要件を満たした請求書を保存しなければならないわけだ。

 インボイスに記載が求められる要件は以下の通り。赤字部分が現行制度からの追記部分を指す。

  • 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  • 税率ごとに区分して合計した対価の額(税別又は税込み)及び適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額等
  • 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

 ポイントは「適格請求書発行事業者」の登録番号が必要になる点だ。適格請求書発行事業者とは、国税庁に申請書を提出し、インボイスを発行できる事業者として認められた、消費税の課税事業者を指す。

photo 適格請求書のイメージ(国税庁の公式パンフレットから引用)

 請求書を発行する側が適格請求書発行事業者でない場合、受け取る側は税控除の対象にならず、消費税の負担が増す。そのため、なるべく適格請求書発行事業者と取引した方が、税金の負担が減ることになる。

 一見すると手続きが増えるだけで、これまでと大きく変わらないように思える。しかし、見方を変えると事情も変わる。例えばフリーランスなどはこの制度に大きな影響を受ける。

 適格請求書発行事業者になるには消費税の課税業者にならなければならない。一方で、これまで、1年間の課税売上高が1000万円未満の事業者は消費税の納税を免除されていた。この仕組みの対象になっていたのはフリーランスなどの小規模事業者だ。つまりこれまで消費税を免除されていたフリーランスなどにとっては、課税対象にならなければ取引を控えられてしまう可能性がある。

 経理部門などにとっての課題もある。インボイスは請求書を受け取る側、発行する側両方が保存しなければならない。2022年1月に電子帳簿保存法が改正されたこともあり、企業はインボイスをデータで受け取った場合、紙ではなくデータ(デジタルインボイス)で保存しなければならず、データの管理体制も整える必要がある。

 2026年10月までは経過措置として、免税事業者からの仕入でも一定の控除を受けられるが、以降はそうもいかない。マネーフォワードなどのベンダーは一連の動向に対し、効率化の需要が発生すると見込んでいるわけだ。

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