5月11日、AppleがiPodシリーズ最後の製品である「iPod touch」を在庫限りで終了すると発表して話題となった。ITmediaでも複数の関連記事が掲載されているが、近年のAppleの礎となり、音楽ファンの心を惹きつけた製品だけあって、みながいろいろ思うところがあるようだ。
筆者自身は音楽を持ち歩いて聴くことがほとんどないため、これまでiPodに手を出したことがないのだが、2000年代は米サンフランシスコに在住してAppleの取材をしつつ現地のカルチャーにも触れていたため、技術と音楽文化の発展の過程は興味深く横目で見ていた。
iPhoneも正式発表される前は「iPod携帯」のような名称で呼ばれていた時期があり、今から考えると主従が逆転したようなものだ。iPod touchは携帯キャリアとの契約ができない若年層向けのiPhone、あるいは廉価版iPhoneのような位置付けの製品として発表された記憶があるが、音楽を聴くのみならず次なる楽しみを見つけるための入門製品だったのかもしれない。
ここから本題だが、筆者がカバー領域とする「決済」「リテール(流通)」分野でiPod touchは非常に重宝されていた。別に音楽を再生するわけではなく、いわゆる「ハンディ端末」としての役割だ。例えば小売店で店員がバックヤードの在庫を参照したり、レストランではオーダーの入力やテーブル会計を行う際に用いている“アレ”のことだ。
以前までであれば専用の業務端末が機器メーカーから提供されていたが、決して安価なものではなく、カスタマイズが行われるとそれが導入価格に反映されていた。だがiPod touchが提供されるようになって以降、専用端末の代わりにiPod touchを導入する事例が増えてきた。
汎用端末なので安価なうえ、業務アプリケーション開発の参入ハードルは低い。他ならぬApple自身がApple Store内での接客対応や決済に、決済機能搭載のケースに取り付けたiPod touchを採用している。前述のコラムの中で小寺氏が指摘しているように、イタリアンレストランチェーンのサイゼリヤが店員のオーダー端末としてiPod touchを採用している。
自身もハードウェア製品を提供している国内大手システムベンダーが客先の業務端末にiPod touchを採用するケースもあるが、これには2つの理由があると考えている。
1つ目は、iPod touchが全世界で共通に提供されている製品であり、アクセサリ類が豊富にあることだ。ハードウェアそのもののカスタマイズをせずとも、こうした市販のアクセサリを組み合わせることで、ある程度のニーズを賄えるため都合がいいというわけだ。
2つ目は、専用ハードウェアを提供する手間だ。カスタマイズを伴うハードウェアの提供は売上で考えれば悪くないものの、ハードウェアを継続してサポートするには人的にも予算的にもそれなりのコストを要する。
特にOSなどソフトウェアのメンテナンスが面倒で、これをAppleやサードパーティの製品に丸投げできる点は非常に有利だ。システムベンダーとしては業務システムの開発とメンテナンスに集中すればいいわけで、この点がiPod touchの活用を促進した背景にあると考える。
ただ、今回の発表でiPod touchの将来的な入手は難しくなることが確定した。すでに業務システムにiPod touchを組み込んでいるユーザーの中には、在庫切れを想定して早めに交換用の製品を確保しているケースもあるかと思う。
米国での報道ではApple Storeなど多くのオンラインストアでの売り切れが報告されており、流通在庫は一部店舗の残りと中古を中心としたものに限定される可能性がある。これら在庫も年内入手はさらに難しくなると思われ、もし入手可能な在庫を見つけた場合、必要な企業は早めに予備機として入手しておくべきだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR