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AIが信号機を自律操作 交通渋滞の軽減を目指す 英国の研究チームが技術開発Innovative Tech

» 2022年06月13日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 英Aston Universityの研究チームが開発した「Fully-Autonomous, Vision-based Traffic Signal Control: from Simulation to Reality」は、交差点にあるライブカメラの映像で交通状況を監視し、深層学習モデルで適切な信号操作をリアルタイムに行う、ビジョンベースの完全自律型信号制御システムだ。

 悪天候や昼夜問わず正確な認識を行い、また公共交通機関や緊急車両などを検出し優先アクセスを提供できることを示した。2022年から実際の道路でシステムをテストしたいという。

悪天候や昼夜などの多様な環境で学習を行う

 現在の信号制御システムは、固定時間枠で動作するものと、道路内のセンサーを利用して必要なときに青信号の延長や短縮を行うものがある。

 後者で使用するセンサーは交差点の近くに設置されることが多く、車両が通過するまで作動しないため、交通状況の部分的な情報しか得られない。そのため、信号機は交通状況の変化をリアルタイムに感知して対応できない。結局のところ手動で変更し、交通状況の変化に対応しなければならないことがよくある。

 このように現在のところ、変化する交通分布に最適化した自律的な信号制御を実現するツールは存在しない。そこで、実際の交通状況にリアルタイムで対応するエンドツーエンドで学習可能な信号制御システムを提案する。これによって信号を適切に補正することで、交通の流れを維持し混雑の緩和を目指す。

 交通状況の把握には、町中のカメラからのライブ映像で確認する。ロンドン市内であれば既存の交通カメラネットワークからリアルタイムに映像を取得できるため、 実世界への展開が容易に行えるメリットがある。

 システムは、カメラの映像を使ってリアルタイムに環境を感知し、その情報を処理して交差点内の交通をできるだけ効率的に移動させるための信号を決定する。車を交差点に通すと“報酬”が得られる強化学習モデルでポリシーの学習を行う。

 また制御できないカメラアングルで撮影した視覚交通データ、異なる天候(晴れと雨)、照明(昼と夜)、交差点レイアウトの種類などの多くの外的要因を考慮したアプローチを採用しており、さまざまな環境で対応できるように学習している。

 さらに緊急車両や公共交通車両、交通密度の高い車線には明確な注意が払われ、障害物(カメラに写る雨滴など)、逆光、スモッグはネットワークの性能に影響を与えないように学習している。

 その結果、シミュレーションで学習した信号制御ポリシーが、未知の交差点に効果的に伝達されることを確認できた。また信号待ちではなく、渋滞の原因となる物理的な障害物を想定してテストしたケースでもうまくいった。

 信号制御ポリシーの注意を実世界の交差点画像上で可視化するデモでは、豪雨、夜間照明、ゆがんだカメラ出力の影響を受けたシーンでも交通密度の高い車線などを正確に認識していることを実証した。また、異なる車両(公共交通機関や緊急車両など)を正確に認識し、交差点への優先的なアクセスを提供できることも実証した。

ロンドン市内の交差点における、晴天、霧、雨天、夜間などの多様な環境での信号制御ポリシーの注意の可視化を示す画像

Source and Image Credits: Garg, Deepeka, Chli, Maria and Vogiatzis, George (2022). Fully-Autonomous, Vision-based Traffic Signal Control: from Simulation to Reality. IN: Proceedings of the 21st International Conference on Autonomous Agents and Multi-agent Systems (AAMAS 2022). NZL: ACM.



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