ソフトウェアのセットアップが終わったので、あとは広瀬八段に使ってもらうだけだ。再びマシンを梱包し、広瀬八段のお宅へ向かったのが3月1日のこと。
広瀬八段はゲーミングチェアがお気に入りとのこと。研究用のデスクは、研究用PCとモニター1台、Bluetoothのマウスとキーボードを置いただけのシンプルさだ。
従来のPCをすぐにどけるわけにもいかないので、まずはデスク下に今回のPCを設置。微妙に宅内のWi-Fiが届かずネットに繋がらないというハプニングも起きたが、従来のPCで使っていたパーツを共用するなどして事なきを得た。
「クリスマス前の子どもみたいにワクワクしていたんですよ」と、広瀬八段の様子を奥方が明かす。従来マシンでもShogiGUIを使って研究していたこともあり、新たなマシンを心待ちにしていたという。
早速、試しに棋譜を並べてみる広瀬八段。「やはり面白い結果が出ますね」。
「候補手が全然違うのがいいです」(広瀬八段)。ShogiGUIは複数の思考エンジンで同時に盤面を評価できる。10秒ほどそれぞれのエンジンが検討したところ、この盤面では水匠が最善手から順に「4五角打」「2九飛」「7七銀」「6八玉」「5八玉」と続くのに対し、dlshogiでは「6八玉」「2四歩打」「2九飛」「5八玉」「1六歩」と、水匠で4番手だった手を最善手に選んだ他、次善手には水匠が高く評価しなかった手を読んでいる。逆に、水匠の最善手に対してdlshogiは高い評価を与えていない。
6八玉の後の読み筋も途中から変わる。「同じ系統のエンジンだと読み筋が似たり寄ったりで、こうして全然違う手を読んでくれるのが勉強になります」(広瀬八段)
ただしコンピュータ同士の対戦の棋譜は並べない、と広瀬八段。「難しすぎて参考にならないから」とはにかむ。人間同士の対戦のこの盤面ではどうか、という検討に主に使っていく予定だ。
このマシンがどれだけ広瀬八段の研究に貢献するかはなんとも言えないが、マシンをお渡ししてから広瀬八段は羽生善治九段に順位戦で勝利、さらに竜王戦二組で勝ち続け二組優勝(本戦出場決定、次期一組復帰)と白星をあげ続け、6月24日現在で6連勝中だ。
この連載では広瀬八段の依頼に始まり、実際にマシンを届けるまでをお伝えしてきたが、ここでいったんの区切りとしたい。依頼の完遂もあるが、筆者が思いがけず編集長になってしまい、執筆の時間がなかなか取れないのもある。ただ、今後もマシンのスペックアップやサポートなど、面白いトピックがあれば順次取り上げていくつもりだ。
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