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au通信障害、復旧を遅らせた「輻輳」って何? 過去にはドコモも(3/3 ページ)

» 2022年07月04日 11時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]
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輻輳からの完全復旧の難しさ

 だが携帯電話会社の大規模通信障害を振り返ると、一般的な輻輳とは異なる想定外の形で輻輳が発生し、それが障害へとつながることが多いようだ。今回のKDDIの場合も、通信障害が発生したのは深夜の1時で音声通話をする人は少ないはずなのだが、それにもかかわらず音声通話に関する部分で輻輳が起きることに疑問を抱いた人もいることだろう。

 KDDIの説明によるとその理由はモバイル通信の仕組みにあるようで、実はVoLTEの仕組み上、端末側から50分に1度、加入者データベースに位置情報を登録するため、ネットワークにアクセスする必要があるのだという。それゆえ音声通話が不通になった15分という短い時間のうちに多くの端末から定期的なアクセスが多数発生したことで、輻輳が起きてしまったようだ。

 また2021年10月に発生したNTTドコモの通信障害でも、やはり通常とは異なる形で輻輳が発生し、それが大規模障害へとつながっている。その発端はIoT向け通信サービスの設備を入れ替える際に不具合が発生したことで、元の設備に戻す際に加入者データベースにIoT端末の位置情報を登録し直したものの、その数がおよそ20万にも上ったため加入者データベースが輻輳、それがネットワーク全体の輻輳へと及んで障害を起こすに至っている。

NTTドコモが2021年10月に発生させた通信障害は、IoT向け通信サービスの設備入れ替え時の不具合により、加入者データベースに位置情報を登録し直す作業をした所、その数が非常に多かったことで輻輳が発生、大規模障害へと至っている

 こうした事例を見れば、ユーザーのアクセス集中によって起きる輻輳に対処するだけでは通信障害を回避できないことが分かるだろう。輻輳はさまざまな形で発生するもので、一度発生した輻輳に対処するにはトラフィックを減らすまで長い時間を要することから、その対処も容易ではない。

 また輻輳からの復旧は一斉に進むのではなく、順々に処理をして進められることから、優先順位が決められていない限りどういった順番で復旧が進み、どの程度のスパンで全てのユーザーが復旧するのかを見通すのは難しい部分もある。今回のKDDIの事例では西日本が11時、東日本が17時30分とタイムラグがあったが、これはちょうど台風が近づいている沖縄や奄美大島などを優先するよう、総務省からの要請がありそれら地域を含む西日本を優先した結果のようだ。

 加えて障害への対処が終わり、輻輳から完全に復旧させる上でも難しい対応が求められる。もし輻輳から完全に回復していない状況で制限を解き、回復したことを通知してしまうと、回復を待ちわびたユーザーが通常以上に一斉にアクセスしてしまい、別の形で輻輳を招いてしまうからだ。

 実際NTTドコモの障害の事例においても、位置情報登録の処理がある程度進んだことから制限を解除し、一部回復した旨のアナウンスをしたところ、ネットワークの負荷がまだ完全に回復した訳ではないにもかかわらずユーザーからのアクセスが殺到したことで再び負荷が急増、輻輳が長引いて批判を集める結果にもつながっている。

 一方で今回のKDDIの事例では、NTTドコモの障害の反省を受けてか情報発信には慎重な対応を敷いたようだが、障害が長引いたことや台風の接近などもあってか、それが総務省、ひいては官邸の不満を招いたようで、総務省から速やかな周知広報が求められるとともに、KDDIに職員が派遣されるなど異例の対応がなされるに至っている。ただ障害発生中で原因が判明していない中にあって、陣頭指揮を取るべき社長が記者説明会を実施することには疑問もあり、輻輳状態にある時の情報発信の在り方にも難しい判断が求められるようだ。

 輻輳で障害を起こさないためにはネットワークの仕組みを理解して適切な処置をしていく必要があり、復旧に向けても慎重な対応が求められるのだが、ネットワークの複雑化が進み、影響範囲が広まる中にあってその難易度が上がっているのも確かだろう。今回のKDDIの場合も、同社で事前のシミュレーションにより問題が起きないことを確認した上で対処を進めていたというが、それでも輻輳が発生してしまったという。

 しかも今後4Gから5Gへと主力のネットワークが変化し、自動運転車やスマートシティーなどの広まりでその利用用途も拡大する一方で、技術的には複雑な要素も増えていくと考えられる。いかに輻輳を発生させない、あるいは輻輳を大規模障害に結び付けない策をいかに講じられるかは、携帯各社にとって非常に悩ましい課題になってくるといえそうだ。

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