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相次ぐ通信障害、巻き込まれる企業の“生存戦略“を考える(2/4 ページ)

» 2022年07月06日 16時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

個人が打てる手は「複数回線の確保」

 今回のような事故に際し、個人や企業はなにか対策を打てただろうか?

 筆者は「複数事業者の契約」くらいしか根本的な解決方法はなかっただろう、と思う。あえて携帯電話網を使わず、別の事業者経由でインターネットを使う、というのも同様だ。

「このような事故に備え、事業者が他社へとローミングする仕組みを整えてはどうか」という意見もあるが、単純に行うのは、まず不可能だ。

 国民の3分の1、それに加えてIoT機器もある、といった規模の事業者の場合、全面的なトラブルが起きて他の事業者へと一気にそれを流すと、流された事業者側が輻輳する。どの事業者も、事故に備え、加入者数を大幅に超えるキャパシティーの回線を用意してはいるが、一気に利用者が数倍になることは想定していないし、その前に認証のための入り口が詰まる。湯水のようにお金があってインフラを無限に作れるなら話は別だが、そんな想定をするのは意味がない。

 低軌道衛星通信を使った緊急通報やメッセージング機能、という話も出ているが、結局は携帯電話事業者のネットワークがどうなっているか、という問題に関わるので、それだけで解決するわけでもない。

 だとすると、緊急時に向けて「別の回線」を用意しておくのがベスト、ということになるは、結局は「可能な限り通話・通信を可能としたい」と考える消費者・事業者側で考えることになるだろう。

 低価格な料金プランも増えたことだし、別の会社をもう1回線契約しておくハードルは低くなっている。固定回線網や公衆Wi-Fiも含め、インターネット回線が常にある状況にするのも重要だ。

 ただ、緊急通話については別かとも思う。今回も最大の問題はそこだった。日本の場合、SIMなしの携帯電話端末では緊急通報ができない仕組みだが、緊急時などに限り、海外同様にそれを認めることで、解決する可能性はあるのではないか、と考えている。ここの課題は主に制度面なので、行政側の判断を仰ぎたいところだ。

 今回の場合、トラブルはVoLTEに集中していた。その関係で、音声通話とSMSへの影響が大きかった。SMSについてはWebサービスの認識に使われることも多く、その点が課題になった。これは、Webサービス側がSMS認証でなく、オーセンティケーターといった認証アプリの利用など、他の方法も導入しておくべき事象だ。

SMSを使わない認証システムとして有名な「Google Authenticator」

組み込みシステムは「オフライン動作」への備えも

 では業務用端末はどうか?

 これについては千差万別だ。

 今回、業務用端末については、IoT機器のデータ利用にはあまり影響は出ず、SMSを使っていた業務用端末や、音声通話を伴う端末(要はスマートフォンの業務利用)に影響が出ていたようである。通信規制時にはどうしてもあらゆる機器に影響が出るものだが、音声回線やSMSへの依存度が低い機器を作ることは重要なことかもしれない。

 トラブルに備えて複数の回線を持った通信モジュール、といった存在も必要になるだろう。Wi-Fiと携帯電話、複数の携帯電話回線、といった形だ。組み込み用モジュールの場合、今はあまりメジャーな構成ではない。

 ただ、そうした通信モジュールが増えるには、バックアップ回線を提供する事業者側が、IoT機器に対しどのような料金体験で用意できるのか、話し合いも必要になってくる。現状だと単に2つの会社に払うことになり、コストの問題が大きくなる。

 そもそも、携帯電話網のみを使っている通信モジュールを内蔵しているのは、そうするのが設置・運用コスト的に有利だからだ。

 もちろん、Wi-Fiが使える場所では使う、といった切り替えは進んでいくのかもしれない。しかし、そこまでのコストが出せない場合があるのも事実。すべての用途で「絶対途切れない」ことを目指すのではなく、「止まった時の、利用停止や代替手段を含む運用マニュアル」を用意しておくほうがコストパフォーマンスは良い。

 結果的にだが、絶対に途切れてはいけないデータと、そうでもないデータの選別がより進むだろう。

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