その結果欧米では、放送局のIP化は急速に進んだ。4K放送をやらない局でも、コストダウンに有利なIP化に積極的だった。一方日本の放送局は、そうはならなかった。HD-SDIケーブルはつなげば絵が出る単純構造だが、IPだとそうはいかない。日本の放送業界にIPが分かる技術者が少なかったこともあり、つないでパッと絵が出ないのはダメだということで、IP化はほとんど進まなかった。
オーストラリアのBlackmagic Designが開発した、メタルケーブル1本で4Kが伝送できる12G-SDIが国際規格に昇格したこともあって、日本では4Kでもメタル伝送が主力になった。
日本の放送局では、クラウド化も進まなかった。ビデオストレージにしても、放送前の素材がスーパーハッカーに盗まれたらどうする、という懸念から、ヨソの会社が運営するクラウドに素材を出すなんて、という抵抗感が強かった。したがってある程度IP化された部分にしても、サーバは局内で動かす「オンプレミス」のシステムが多かった。
話が急速に変わってきたのは、やはりコロナ禍が原因だったという。
朋栄は、放送局向けの映像機器を中心に開発する、中堅メーカーである。「カメラから後の全部」を面倒見る会社ともいえる。
これまで局内で使用する番組テロップ制作システム「VWSシリーズ」を展開してきたが、これをクラウド上で運用するシステムを開発している。2021年4月に日本テレビ関連会社の「NiTRo」が中心となって製品化したが、今は朋栄が中心となって開発を続けている。
テロップシステム、通称テロッパーは、ライセンスのカタマリのような機器である。専用ソフトはもちろんのこと、フォントのライセンス管理も必要ということで、局内に専用端末をズラリと並べてバチバチと作業する、そういうシステムだった。
だが制作スタッフにコロナ感染者が出始めると、本人はもとより、濃厚接触者となったスタッフも局に出勤できなくなる。他のことはテレワークでもなんとかなるが、テロッパーだけは局内にしかシステムがないので、番組制作ができない、という事になった。そこにテロッパーもクラウド化してくれ、というニーズが急速に発生した。
外に出すな、が、いいから全部出せ、に変わっていった。
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