今回は屋外に、IP中継車を展示している。IP中継車は、それこそ映像のIP化の走りとなったソリューションである。4Kでメタルケーブルが4倍になれば、狭い中継車がケーブルだらけになる。またケーブルが重すぎて中継車が山を越せない(坂が登れない)ということが分かり、急遽IP化へ進んだという経緯がある。
東京の放送局やポストプロダクションでは、IP中継車は人気のあるソリューションだ。一方地方局は、中継車更新の時期になっても、IP化への動きは渋い。そもそも中継車を出して中継しなければならないようなイベントが少なく、球場などのスポーツ施設にはすでに光ファイバーが敷設されている。
つまりIP中継車を使わず、既存回線を使って会場から局まで直接IP伝送してしまうというところに、一気にジャンプしようとしているわけである。IP化したからといって、中継車1台の価格が下がるわけでもなく、車両費抜きでもだいたい1.5億〜2億円ぐらいかかる。一点集中で中継車に2億円使うぐらいなら、その金で広く浅く全体のIP化へ進んだ方がいいんじゃないの? というのが地方局の胸算用だ。
日本の放送業界のIP化は、IPがよく分からないということを理由に、一度頓挫している。それがコロナ禍をカバーするために、急速に動き始めた。
機材はすでに海外で運用実績があるため、実用上の問題なかったが、人間の働き方やお金のかけどころなど、人に関わる部分の積み上げがないままの突入となった。従って話には聴いていたがやってみて初めていろいろ分かったという、泥縄的な運用を迫られている部分も多い。
外からやれと言われても全く変わらないが、内部が混乱すればすぐに変わるというのが、テレビメディアの特徴である。日本社会の習慣とは真逆だが、それだけ内部政治が強い組織ということであろう。
ただここにきて半導体不足と円安の影響で、IP化のメリットであったコストダウンの恩恵は得られなくなった。なんともタイミングの悪い話だ。そういう「後出しジャンケンで負ける」みたいなところが、昔からある業界なのである。外から見ていると面白いだろうが、中の人たちは大変なのだ。
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