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“動画=ネット”時代のテレビはこうなる 「次世代地デジ」が実現する通信とコンテンツの融合とは(1/6 ページ)

» 2022年08月29日 08時00分 公開
[神部恭久ITmedia]

  総務省を中心に議論が進む次世代地上デジタル放送。動画をネットで見る時代にテレビはコンテンツをどう送り出せばよいのか、「通信とコンテンツ」の融合は進むのか、NHKエンタープライズでエグゼクティブプロデューサーを務める神部恭久氏が、その姿について解説する。


 地上波放送のデジタル化が始まったのは三大都市圏で2003年、アナログ放送が終わりデジタルに完全移行したのが2011年(宮城・岩手・福島の3県は2012年)だ。以後、2022年の今に至るまで、地上放送システムはアップデートされていない。一方で、デジタル放送が始まったとき3Gだったモバイル通信は、4G、5Gとアップデートされ、次は6Gと進化のスピードを早めている。私のような放送サイドに属するものから見れば、このままではますます時代に取り残されるのではないかという危機感がつのる。

 実は今、総務省では放送用周波数の有効活用などを目的に、次世代地上デジタル放送の技術検討を進めている。久々に放送システムがアップデートされようとしているのだ。どのようなものになるのか、2020年2月18日開催の放送システム委員会において「地上デジタルテレビジョン方式の高度化の要求条件」がまとめられた。

地上デジタルテレビジョン方式の高度化の要求条件(概要

 キーワードを抜粋すると、1「超高精細」、2「実現可能かつ拡張性」、3「多機能で多様なサービス」、そして4「通信との連携による新たなサービス」だ。

 私は30年以上、NHKの番組制作を通して通信との連携に関するさまざまなトライアルを行ってきた。そこで4に注目して、次世代の地上デジタル放送でどんな「新たなサービス」が可能になるのか、放送と通信が理想的に連携できる未来への期待を込めて、考えてみたい。なお、本稿は個人の意見であり、組織を代表するものはないことをお断りしておく。

ディレクターは「放送と通信の連携」の夢を見る

 「放送と通信の連携」という言葉には聞き覚えがある人が多いのではないだろうか。あるいは「放送と通信の融合」といった方がなじみがあるかもしれない。実は、放送番組の制作者はことあるごとに融合にトライし、失敗や成功を繰り返しながら、新しいコンテンツの扉を開いてきた。

 未来を考える前に、制作者からみた「放送と通信の融合」がどんなものだったのか少し振り返ってみたい。

 80年代、まだインターネットが身近ではなかった時代から「放送と通信の融合」という言葉は存在した。例えば通信衛星を使った放送(CS放送)がそうだ。通信の伝送路で放送を行うということなので「融合」と呼ばれたのも納得できる。そして、インターネット元年と言われた95年以後、「融合」のバリエーションは飛躍的に拡大していった。

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