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“動画=ネット”時代のテレビはこうなる 「次世代地デジ」が実現する通信とコンテンツの融合とは(6/6 ページ)

» 2022年08月29日 08時00分 公開
[神部恭久ITmedia]
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「通信との連携」で生まれる新しいコンテンツとは?

 とかく活気がなくなったといわれる放送業界だが、現場の制作者は、そこに新しい技術があれば、何か新しい演出ができないかと考える性がある。

 次世代地上デジタル放送の技術仕様はまだ議論の途中だが、仮にMMTのような「放送と通信をシームレスにつなぐ技術」やオブジェクトベース伝送のような「複雑なデータを配信できる技術」が実現したらどんなコンテンツが生まれるだろうか?

 大きな変化が起こるのは「音」ではないかと思う。同期は、映像以上に音声に効いてくる。日常生活でも、一瞬返事が遅れるだけで、相手になにかあったのかと気になることがあるが、例えば、ドラマのワンシーンで、通信経由の音と放送の音がずれたら、それはもうダメである。そのため、音楽、トーク、ドラマのように「間」が重要な放送番組ではこれまではイマーシブメディアなど通信との連携は試みようがなかった。完璧かつ確実な同期で複雑なデジタルデータを配信できるようになれば、例えば「ドラマの主役だけをリビングに呼び出して、放送では聞こえない小さなつぶやきに耳を傾ける」と言ったことができるようになる。

 放送の最大の強みは同時に多人数に届けられることだが、この「同時性」がもう一つのポイントだ。例えば、マルチカメラのLIVE配信はすでに存在するが、放送とずれると盛り上がりにくい。放送と通信を区別する必要がなくなれば、大画面TVとPCに接続したプロジェクター2台で、3画面没入空間が作れてしまう。コンテンツの中身の変化だけでなく、その楽しみ方も想像を超えた広がりが生まれる可能性がある。

必要なのは好奇心の備蓄

 自由視点ARストリーミング技術やメタスタジオなどの技術は、次世代デジタル放送で、「放送と通信の連携」が高度に可能になったときに威力を発揮する技術だ。番組制作者から見れば、心強い未来への備えだ。

 むしろ心配なのは「制作者がこの技術に反応できるのか」ではないだろうか。通信技術の開発スピードはますます加速していくので、もたもたしていると放送が辛うじて持っている優位性がどんどん削られていく。放送番組に携わるものは「よくわからんけど、だからやってみる」という好奇心の備えだけは十分しておかないといけないと思う。

 一方で、視聴者の立場にたてば、こんなに可能性に満ちた時代はない。今、メタバースが注目されているが、仮想空間が第2の生活空間として機能し始めたら仮想空間に適した新しいコンテンツが必要になるはずだ。そこにシステムとしての放送は存在するのか、通信と連携、あるいは融合した「新しいメディア」は生まれるのか。そして、それを作るのは、番組制作者なのか、ゲームクリエイターなのか、それともエンジニアなのか。

 さらに放送には、視聴者に対して、新しい刺激だけでなく、過度な負担をかけずにあまねく情報を届けるという使命がある。可能性に満ちた時代に、次世代の地上デジタル放送で、放送と通信はどのように連携していくことができるのか、注目したい。

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