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“動画=ネット”時代のテレビはこうなる 「次世代地デジ」が実現する通信とコンテンツの融合とは(3/6 ページ)

» 2022年08月29日 08時00分 公開
[神部恭久ITmedia]

そしてイマーシブメディアとの融合が始まった

 ここ数年、新しいタイプの融合が脚光を浴びている。それがVRやARといった四角い画面に収まらない新しい表現手段「イマーシブ(没入型)メディア」との融合だ。

 先に断っておくが、VRはWebサイトやSNSと違い「通信でなければならない」わけではない。極端なことを言えば放送波で伝送することも可能だが、現状では通信を使うのがもっとも現実的なので、「放送と通信の融合」の一形態として取り上げる。

 放送番組制作者が、近年、VRとの融合を考え始めるようになったのは、Oculus社が開発したヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift」の登場がきっかけだ。私は開発者用のプロトタイプで初めてVRコンテンツを視聴したが、わずか数分でカメラと自分が一体化したと感じるほどの没入感に驚いた。

 VRを体験した同僚の多くも強い衝撃を受けた。「TV受像器は四角い」という普段は意識すらしないことが実は制約だったことに気が付き、その制約が取り払われれば、まったく新しい映像表現が生まれるのではないかという興奮を感じた。それがエネルギーになった。

 自分の仕事で恐縮だが、NHKで初めて本格的に番組と連動するVR映像を提供したのが、私がプロデュースしたNHKスペシャル「神の領域を走る」(2016年10月放送)だ。パタゴニアの過酷な山野を一昼夜走り続けるというスポーツドキュメンタリーだが、放送に合わせて現地で撮影したVRの動画と静止画をWebで公開した。

残念ながらVRが視聴可能だった特設ホームページは閉鎖されている。画像はDVDのパッケージから

 VR元年と言われた2016年、各放送局は放送と連動したVRを企画し、Webサイトやイベントで人気を集めた。翌2017年にはさらに一歩進んだ試みが行われた。BS1スペシャル「知られざるトランプワールド〜360°カメラが探訪する新大統領を生んだ世界〜」。タイトルに「360°カメラ」が登場することからも分かるように、番組の特定の場面をVRカメラで撮影し、VR映像の中心部を四角く切り出して放送。同時に完全なVR映像をストリーミング配信し、スマホかタブレットで「画面の外側まで見てもらおう」というものだった。VRを前提に放送番組の構造を変えた初めてのケースといえる。

 今、NHKでは「NHK VR×AR」というサイトを開設し、ジャーナリズムの視点を中心としながら、さまざまなイマーシブコンテンツを集積している。今後メタバースが発展したら、どのような融合が生まれるのか楽しみだ。

「NHK VR×AR」

次世代の融合に必要な技術とは何か?

 制作者の立場からみた「放送と通信の融合」を紹介した。ここにあげたのはほんの一部で、そもそも最大の融合である「データ放送」について触れていない。だが、今紹介した例をみても「現行の放送システムで十分やれるではないか」という気がしないだろうか。

 実は、今のままでは決定的にできないことがある。

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