もう一つ「技研公開2022」から、放送と通信の連携に関連する技術「メタスタジオ」を紹介したい。
写真のように、グリーン一色に塗られた半球状のドームがメタスタジオだ。被写体は台の中央付近で動作し、それをありとあらゆる方向から撮影し、フォトグラメトリーという技術と同じ手法で、動く3Dモデルを作り出す。同様のスタジオはすでに存在しているが、技研では、これまでにない使い方ができるように開発を進めている。
1つ目のポイントがリアルタイム性だ。通常のフォトグラメトリースタジオで人物を撮影する場合、カメラ台数は40台にもなる。精細な3Dモデルを作るためには空間を漏れなく撮影する必要があるためだが、台数が多いため演算に時間がかかり、コストもかさむ。「メタスタジオ」では、一部のカメラを自動追尾型に切り替え、全体の台数を減らす工夫を行なった。既存のものと比べカメラ台数は半分に減り、演算速度も早くなったという。
さらに、撮影後に演出できる要素を増やした。例えば、撮影後に照明条件を変えることができるので、室内や屋外の変化はもちろん、メタリックな表面にしたり、横顔を夕日が照らすといったドラマ的な演出をあとで加えることもできる。こうした演出は、毛髪のような複雑な構造にも対応可能だ。
放送というよりも、むしろゲーム向きの技術に思える。実際に見学したゲームクリエイターのイシイジロウ氏は「実写のモデルは変化させにくいのでインタラクティブ性が求められるゲームには使いにくいが、『メタスタジオ』を使えば、時間や空間に合わせてキャラクターや環境を変化させることができる。とても可能性を感じた」という。
プレイヤーの選択でシナリオが分岐するゲームでは、一度しか使えない3Dモデルの撮影にコストをかけるのは効率が悪い。後演出でバリエーションを増やせる「メタスタジオ」の技術は確かにゲーム向きだ。しかし、MMTやオブジェクトベース伝送技術が十分使える未来を想像すれば、番組とARが連動するケースは増える可能性がある。現状では動く3Dモデルの撮影作成にはかなりのコストがかかるが、スピーディーで手軽に使えるスタジオがあればコンテンツの量産につながる。
次に、もう少し踏み込んで次世代地上デジタル放送に期待する「通信との連携による新たなサービス」について考えてみたい。
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