ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >
STUDIO PRO

“動画=ネット”時代のテレビはこうなる 「次世代地デジ」が実現する通信とコンテンツの融合とは(2/6 ページ)

» 2022年08月29日 08時00分 公開
[神部恭久ITmedia]

それはホームページから始まった

 最初の事例はホームページ(Webサイト)だ。放送番組が公式サイトを持つことを「放送と通信の融合」というのは大げさに聞こえるが、始まった当時は「無限に広がる通信の海に、番組が乗り出して行く」ようなイメージがあった。

 90年代後半、NHKではいくつかの番組で公式サイトが開設された。95年に放送が始まった「ためしてガッテン」もその一つで、私は番組ディレクターをする傍ら、一時期、Webサイトの更新担当をしていた。内容はシンプルで、テキストと写真でレシピを紹介したり、次回予告などをHTMLでベタ打ちしていた。

後継番組「ガッテン!」のホームページ。文字通り隔世の感がある。ちなみに「ガッテン!」は2022年2月、27年の歴史に幕を下ろした

 インターネット普及率が1割にも満たなかった黎明期に「ためしてガッテン」のようなターゲット年齢が高い番組がいち早くWeb サイトを立ち上げたのは「インターネットというものがどういうものか、まだよく分かっていなかったから」というのが大きな理由だ。当時、公式サイトを立ち上げた番組の多くは、同じような動機だったのではないかと思う。

 その後、ネット人口が急激に増加すると、公式サイトの機能は「アーカイブ」から「告知や宣伝の場」へと、さらに投稿や写真を募集、共有できる「視聴者とのコミュニケーションの場」へと変化していった。2001年、総務省は情報通信白書において「通信と放送の融合現象」を大きく4つに分類し、具体例を挙げているが、その中で、公式サイトは「サービスの融合」に分類されている。

平成13年版 情報通信白書 第1章 特集 加速するIT革命より

 90年代末から2000年代初頭、ディレクターたちは、放送サービスと通信技術の融合に「何かが生まれる予感」を感じた。そして、同僚や他局のトライアルに刺激されて、もっと新しく面白いものを作ろうと考えるようになっていった。

進化しつづけるSNSとの融合

 Webサイトの次に大きな変革を起こしたのがSNSだ。ネットにつながるモバイル端末、フィーチャーフォン、スマートフォンの登場で、人々はいつでもどこでも気軽に気分を共有するようになった。TwitterやFacebookの影響力を知った番組制作者たちは公式アカウントを作り、最初は広報手段として、そして「お便り、FAX、メール」に代わって、視聴者との関わりを生み出すツールとしてSNSを積極的に使い始めた。番組の画面にTwitterの投稿が流れるのはもはや見慣れた光景だが、あれこそ「放送と通信の融合」のもっとも分かりやすい形だといえる。

 そして今、放送とSNSの融合は、もう一段進化しつつあるように思う。キーワードは「コミュニティー」だ。熱心なファンがいる番組の場合だが、ファンがSNSを使ってコミュニティーを作り、番組を話題にしたり、2次創作をして世界を広げてくれることがある。逆に振れ、悪評が広がる場合ももちろんあるが、いずれにせよ、今や番組制作者の多くはコミュニティーを意識して、話題になりそうなネタをしこんでいるはずだ。

 その結果、じわじわと放送番組の「構造」が変わりつつあるように思う。近い将来SNSの存在によって番組の在り方がどのように変わったのかが、明確になってくるのではないだろうか。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.