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なぜ今も「GRシリーズ」は売れ続けるのか?

» 2022年09月07日 19時46分 公開

 カメラが売れない、もうスマホで十分と言われるようになって早何年が経過したでしょうか。その状況を反映してコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)の新製品はすっかり減り、カメラメーカーもミラーレス一眼に注力するようになりました。

 ところが7月のある日、GRの限定モデルである「RICOH GR IIIx Urban Edition」のお知らせを見て、びっくりしました。「2022年7月22日に発売を予定しております『RICOH GR IIIx Urban Edition』につきまして、当初の想定を大幅に上回るご予約をいただいており、製品のお届けにお時間をいただく場合がございます」。私が見た範囲では2カ月待ちとなっていたところもありました。

リコーの告知(7月14日付)

 デジタルGRだけでも、コンセプト発表からだと約20年の歴史があるGR。現在、販売されているのは「GR III」(35mm判換算で約28mm相当)と「GR IIIx」(35mm判換算で約40mm相当)の2機種。仕様の違いは広角画角か標準画角かというレンズの違いのみです。

「GR III」(画像=左)と「GR IIIx」(画像=右)。赤く見えるリングキャップ(リコーによるとパープル)はキャンペーンのプレゼントで非売品

 手ブレ補正こそ付いていますが、ズームレンズもないシンプルなカメラです。もっとも、撮像素子にはAPS-Cサイズのセンサーが採用されており、一線級の画質となっています。さらにGRを2つ持って歩いても、ポケットが2つあれば大丈夫というサイズ感は他にはなかなかないものです。

2台同時に片手で持ててしまうサイズ感

 ただ、GR IIIの発売からすでに4年が経過し、GR IIIxにしても1年前に発売されたカメラです。そんなカメラが限定版とはいえ、注文しても手に入らないという状況は特筆すべきことです。では、なぜそんなことになっているのでしょうか?

 なお、限定版である「RICOH GR IIIx Urban Edition」ですが、特別仕様の塗装を施し、アクセサリーをセットにした製品であり機能面の違いはありません。

GRの手厚いサポート

 GRは発売時からオプション品だけではなく、アクセサリーが豊富に用意されています。また機能拡張を伴うファームウェアアップデートを続けています。発売時に「1.00」だったファームはすでに「1.11」。以前に買った人には機能追加となりますし、新しく買う人は最新機能が追加された状態でGRを入手できるというわけです。

 またデジカメのイベントはたいてい新製品発売時に行われるものですが、GRでは今年に入って「GR meet 47」という全都道府県を巡ることを目標としたイベントを続けて開催しています。

 GRの公式サイトでは愛好家を紹介する「GRist」というコーナーですでに55人もの人々を紹介しています。カメラマンだけではなく、その中には元「乃木坂46」の深川麻衣さんの姿もあります。

 写真なんてスマホで十分。もちろん情報としての写真の場合はそういってもいいレベルにあります。しかし、とにかくすぐに撮影できる、シャッターチャンスを逃さない機能性。そして、GR IIIxでさらに強くなった自然なボケの美しさはまだまだスマホにはない部分です。そして、なによりそこにはカメラという機械を操作する楽しさがあるのです。

気づけば他に選択肢がない

 10万円を超える製品となるとカメラでなくても、購入時には勇気が必要なものです。その感覚は投資的な意味合いもあるでしょう。私はこのカメラを使う未来にお金を出していいのか? ということですね。そしてGRには歴史的な経緯も含めて、その判断をするための材料が用意されています。

 そして、数万円レベルのコンデジがなくなってしまった今、そういったカメラの所有欲を見たしてくれるような製品はほぼマーケットから消えてしまいました。GR以上の機能性を持った製品がないわけではありませんが、それはGRよりもさらに高い製品となってしまい、それならミラーレス一眼にしようかな? と考えてしまうでしょう。

 製品には寿命があり、その生き残りのための戦略も様々です。GRのカメラとしての機能はとてもシンプル。だからこそ、そこには研ぎ澄まされたコンテンツとユーザーが残りました。それがGRの製品寿命をさらに延ばしています。つまり、過去の資産と現在の活動と未来への展望がうまくループしているわけです。

 “インスタ映え”という言葉が普通に使われるようになって久しいですが、気づいてみれば普段使いできるサイズ、文句のない画質、アクセサリーなどで自分のカメラとして本体を演出できる、そんなインスタ時代に求められるカメラの要件を見たしているカメラはGRぐらいかもしれません。だから基本設計は4年前のカメラの限定版が手に入らないということが起きているのです。

 そして、そのGRの基本設計の確かさというのは、なによりもレンズを含めたカメラ性能とそこから出てくる写真の出来栄えに注力した結果なのですから、カメラ好きとしてはこんなにうれしいことはないですね。

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