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クラウド活用が進まない中小の実態、原因は“社内カースト”に? 事例を分析(2/2 ページ)

» 2022年10月31日 11時25分 公開
[伊藤利樹ITmedia]
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本質は「人不足」ではなく「社内カースト」

 筆者は話を聞いて、友人の勤め先で生じている問題の本質は、人不足ではなく“社内カースト”の問題だと感じた。稼がない部門は立場が弱く、稼ぐ部門に優秀な人が割り当てられるのはある程度仕方ない。実際、友人も、情シスがコストセンターとしか見られておらず「社内カーストが低い」と感じていると話していた。

 結果として、情シスは脆弱な体制となり日々の業務に追われてしまう。自己研鑚する暇もなければ、優秀な人材を中途採用する予算も割り当てられず、活用にある程度の知識が必要なIaaSやPaaSは難しくなってしまうわけだ。

 筆者は一連の現象に「なるほど……」と納得すると共に、こういった課題は友人の会社に限った話ではないように感じた。

 情シスの地位が低く、人材難にあえいでいる話は企業の大小問わずよく聞く話だ。ビジネスにおけるITの重要度が増してきたこともあり、最近は情シスに力を入れる会社も一定数見られる。社会全体において、情シスの地位が低いということはないはずだ。

 実際に筆者は情シスが優秀な人材で固められている会社をいくつか知っている。中にはIT系の専門書を執筆し、その道ではバイブルとされているような著者を擁する情シスもある。内製化が囁かれる昨今、中途採用で優秀な人材をかき集めている情シスも少なくない。

 しかしその一方、友人の会社のように「現場で使い物にならなかった人」のセカンドチャンスとしての情シスがあるのも事実である。いわれてみると、情シスへの力の入れ具合と、クラウドをはじめとする先進技術の早期導入は正の相関があるように感じる。

 これは筆者の仮説だが、社内優先度が低い情シスは、少数の優秀な社員が目の前の仕事に全力を尽くしてしまい、新しいことができなくなっているのではないか。逆にいえば、社内優先度が高い情シスは優秀な人材が一定数おり、さらに人的資源に余裕があるので、新しいことにチャレンジする余裕もある──という構図だろう。

改善には経営層の意識改革が必要 IT軽視は時代遅れ

 どの部署に優秀なリソースを割り当てるか、決定権は当然経営層にある。経営層がITに力を入れることで状況は改善できる。

 友人の会社では基幹システムが停止すると、全営業店が機能しなくなるそうだ。友人Aの会社に限らず、ITが事業継続性に大きな影響を与える会社は非常に多い。

 そこまでシステムの重要度が増してきているにもかかわらず、情シスが経験の浅い2人を含む3人というのは、正直なところ脆弱という他ない。大規模なハード障害が起きたとき、この体制では復旧に時間がかかり、ばかにならない機会損失にもつながるはずだ。

 昔はITが与える事業インパクトが小さかった時代もあったが、今は違う。当時あったIT軽視の考えが経営層に根付いており、中小企業のクラウド活用を停滞させているのかもしれない。であれば、情シスを「稼がない部門」と切り捨てる前に、システムがあるからこそ「稼げる」という現実に目を向けてもいいのではないだろうか。

 後編では、残る「変化を嫌う文化」について分析。IaaS・PaaSに比べ、比較的特別なスキルが必要ではないSaaSの活用までもが進まない理由についても考える。

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