このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
米The University of Texas at Austinの研究チームが発表した論文「Signal Structure of the Starlink Ku-Band Downlink」は、米SpaceXの衛星インターネットサービス「Starlink」の信号をハッキングし、GPSにみる衛星測位システムに適応した研究報告だ。衛星から受信機に発射される信号を捉えて計算することで、衛星測位システムとして機能し位置を特定することに成功したという。
Starlinkは、衛星から地上の人々へインターネットを提供するシステムである。すでに3000個以上の衛星が軌道上を移動している。低軌道を移動しているため、通信速度が早く遅延が少ないネット環境をへき地でも提供する。衛星1機でカバーできる範囲が狭い分、大量の数の衛星で補い連携しているのが特徴だ。
ユーザーは地上に設置するStarlink専用アンテナを購入し、定額の有料サービスに加入して利用する。日本でも10月11日にサービスの提供を開始した。
一方でGPSなどで使用する測位衛星は、Starlink衛星よりも高い軌道を移動しているため、少数で広範囲をカバーできる利点を備えている。しかし、地球より遠いため信号が弱く干渉が起きやすいため、低軌道衛星よりかは精度が低下する傾向にある。
今回は地球により近い低軌道を移動するStarlink衛星で衛星測位システムが機能すれば、既存の衛星測位システムの代替えやバックアップ用としてより正確な精度で利用できるのではと考えた。
Starlinkはインターネット専用なため、そのままでは衛星測位システムとして利用することはできない。そこで研究チームはStarlinkの信号を取り込むためのシステムを独自に開発した。このシステムは、パラボナアンテナとカスタムソフトウェアで構成され、SpaceXから公開されているStarlinkの軌道情報を参考に、上空の衛星を選択し追跡している。
このシステムによって、衛星が受信機と接続するために発射している信号を取得する。この信号は、受信機と衛星を接続するために繰り返し送信されているもので、送信間隔はGPSのそれと一致する。
この情報に加えて、米SpaceXが他社の衛星との衝突リスクを減らすために共有しているStarlink衛星の動きに関するデータと組み合わせれば、信号源と衛星の距離から受信機の位置を計算できるという。
実際にこの手法で受信機の位置情報が特定可能かを実験した結果、約98フィート(約30m)の誤差精度で受信機の位置の特定に成功し、Starlinkが衛星ナビゲーションサービスに利用できることを実証した。
Source and Image Credits: Todd E. Humphreys, Peter A. Iannucci, Zacharias Komodromos, and Andrew M. Graff. Signal Structure of the Starlink Ku-Band Downlink
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