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東工大が入試に新設する「女子枠」がネットで物議に 今後の入試への影響は? 話を聞いた

» 2022年11月17日 15時55分 公開
[松浦立樹ITmedia]

 東京工業大学(東工大)が2024年度入試から新設する「女子枠」が議論を醸している。募集人員1028人の約14%に当たる143人分を女子枠として新設し、女子学生比率の向上を目指す。導入に際し、既存の推薦入試などの一般枠を削減することから、Twitter上では「女性の方が受験に有利になるのではないか」など疑問の声が上がっている。

 23年度入試では、一般選抜が930人、総合型(AO入試)・学校推薦型(推薦入試)選抜で98人、計1028人を募集しているのに対し、24年度からは全体の募集人数は変えず、一般選抜を852人、総合型・学校推薦型176人のうち一般枠で118人、新たに女子枠として58人分を募集。25年度からは一般選抜枠で801人、総合型・学校推薦型227人のうち一般枠で84人、女子枠で143人、計1028人を募集するという。

全体の募集人数は変えず、新たに女子枠を設ける

 東工大では16年から学部と大学院を統合した「学院」を設けており、女子枠の募集人数や選抜方法も学院ごとに異なる。例えば、理学院ではこれまで総合型入試を実施していなかったが、25年度からは女子枠として15人の学生の募集を始める。工学院では現行の総合型入試で34人を募集しているのに対し、25年度入試からはこれを撤廃。新たに女子枠のみで70人を募集する。

学院ごとの募集人数

 女子枠の選抜方法について理学院の総合型では、共通テストで一次選抜を行い、二次選抜では数学や物理、化学などの筆記試験と面接などの課題を科す。一方、工学院の総合型では共通テストによる一次選抜は同様に実施するが、二次選抜は面接のみ。「女性活躍社会に貢献するために工学院で学びたいこと、及び自身の将来像をふまえた志望動機」などを問うという。総合型入試などの一般枠と女子枠は併願可能で、両方合格した場合は女子枠での入学となる。

理学院の総合型入試の要件
工学院の総合型入試の要件

 女子枠の導入理由について東工大は、「学修環境を多様性のある理想的なものに近づけるため」「より多くの女性科学者・技術者を社会のさまざまな分野に輩出するため」などと説明。また「これを起点に波紋が広がり、当大学に限らず社会全体に、真に多様性を受容する環境が育つことを期待する」としている。

 これらの告知を見たTwitterユーザーからは「女性の方が受験に有利になるのではないか」や「公平性が保たれない」「女性の社会進出とは違う話では」など、疑問を呈する声が上がっている

「女子枠」開設による影響は? 東工大に話を聞いた

 ITmedia NEWSでは女子枠開設に関して東工大に話を聞いた。女子枠によって、一般枠が減ることについては、「入学者選抜に当たって女子枠を設置することは、現在存在する格差解消を効果的に実現し、課題解決を達成するための有力な一つの手段だと考えている」と回答した。

 「女子枠の設置は、当学の複数の入試制度の一つである総合型選抜・学校推薦型選抜において実施するものであり、入試制度全体では男女間の平等、公正に十分留意するものとなっている。達成すべき目標に照らして、平等原則に十分な配慮を行っているものであり、ご理解いただきたいと考えている」(東工大)

 続けて、理工系分野で多くの女性研究者・技術者や多様性を創出することは、理工系教育機関が達成すべき極めて重要な課題であると、東工大は指摘。「男女の形式的平等主義に依拠するあまり、課題達成のため何ら措置を講じないでいることは、日本を先導する理工系総合大学として、今や許されることではない」と説明している。

 成績の順位で入学する学生が減ることで、学生の質が落ちるのではという指摘に対しては、「女子枠が一般枠よりも入試難易度が低いということはない。今回の入試改革では、総合型選抜・学校推薦型選抜の全体を見直した」と返答。一般枠も含めて、複数の学院で個別試験を廃止し、共通テストで学力を評価することにしているという。

一般入試と総合型・学校推薦型入試の違い

 「一般枠と女子枠で評価軸は異なるが、いずれも、当学での学修に必要な基礎学力を身に付けていない人は入学できない。基礎学力が基準を満たす志願者が募集人員に満たなければ、合格者は募集人員よりも少なくなる。女子枠を総合型選抜・学校推薦型選抜に導入するのは、基礎学力を担保した上で、多様な学生に入学してもらいたいと考えたためだ」(東工大)

 理学院や工学院などで、総合型入試で男子学生を募集しない背景については「理学院では、女子枠を学院に入学する学生の多様性を広げるために活用したいと考え、総合型選抜という形をとることにした。学院全体のバランスを考え、今回設定した人数が適当と判断している」と回答した。

 続けて工学院については「従来の常識にとらわれずに新たなことに積極的にチャレンジし、社会を身近なところから変えてくれるような女子学生に入学してもらうことを強く希望している」とし「多様性の促進については女子学生の比率増大に焦点を置いているため、女子学生限定以外の総合型選抜は実施しない」と説明している。

 また、性自認が女性であるトランスジェンダーの人たちは女子枠を利用し受験できるのか。東工大は「今回の女子枠において、トランスジェンダーをどのように考えるかについては、さまざまな観点で慎重に検討を続けていく必要があると認識している」と返答した。

【訂正:2022年11月25日午後4時8分 東京工業大学の募集要項に一部間違いがあったため、併せて記事本文の内容も訂正しました。】

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