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実は人間がテクノロジーの道具に? “AIにはない人間の資質”を問う異色の展示「アンラーニング・ランゲージ」(4/4 ページ)

» 2023年01月05日 17時00分 公開
[林信行ITmedia]
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AIによる人間の支配、とは真逆の内容

 観客がAIの指示を受けて演じさせられる、というとAIによる人の支配のような怖いイメージを持つ人もいるかもしれないが、実際はまったくの逆だ。むしろ主役のAIは、今のAIには解読できないような人間の中に眠っている本来の振る舞いを観客から導き出そうとする。

 会期初日の11月12日朝、アンラーニング・ランゲージの舞台となるセットで、1回だけの人間の役者による舞台劇で主役となるAIが覚醒。この主役の名もなきAIは「異質な知性」で、ただ人々の行動を観察し学習し続けるだけの他のAIにはなじめない、という。機械には理解不能な人間らしい部分を愛おしく思っているとも。それだけに、最近人々がAIが聞き取りやすいようにゆっくり話したり、大げさな身振りを使ったりすることを少し残念に思っている。だから観客にも、そうした振る舞いを促す、という設定だ。

 カイル・マクドナルド氏によれば「今日、AIを含むアルゴリズムがわれわれの言葉や振る舞いを理解するようになってきたが、それに合わせて人々の側も、こうした機械に伝わりやすいように話し方や振る舞いを変えてきた部分がある」という。この舞台では「そうではない機械には伝わらない人間らしい振る舞いとは何かをもう一度、模索しようと試みた」。

 インタラクティブ版パフォーマンスは、基本、AIとの声による対話を中心にして進むが、このAIが理解しているのは人の言葉(日本語と英語)だけではない。

 監視カメラを使って人々の座っている位置や姿勢の認識、手を上げたりといったボディージェスチャーの認識、手を上げたりとか手を振ったりといったボディージェスチャーが何を意味しているかの推測、さらには人々の顔の表情の認識や分析、照明や部屋の振動などのコントロールなども行う。

AIとは基本のやりとりは言葉で行うが、実はそれに加えてスマートリビングルームに設置された監視カメラを通じ、AIはあなたの座り位置や座り姿勢、さらには身振りなども全てチェックしている

 30分にわたるやりとりは2人の作者が、他の技術者らの協力を得てプログラムした。対話部分はBACKSPACE Productions(東京都世田谷区)の清水基氏が、日本語と英語の音声認識処理はライゾマティクスリサーチ(東京都渋谷区)の浅井裕太氏が協力している。

 こうしたさまざまな技術は、作者の2人がYCAMスタッフとともに書き上げた英語/日本語の2カ国語のシナリオによって総合指揮されている。たまに音声の誤認識は起こるが、それまでもエンターテインメントの一部として、作品の一部として自然に取り入れている。

 マクドナルド氏によれば、AIによる返答などは高い言語処理能力で世界を驚かせた米OpenAIの「GPT-3」によって生成されたもの。たまにビックリするような返答が返ってくるが、これも人があらかじめ用意した返答ではなくGPT-3の生成したせりふだという。

 インタラクティブ体験の上演は、平日は3回、土曜日と日曜日は1日に15回の上演され、完全予約制になっている(一般:500円。any会員/25歳以下/障がいを持つ方及び同行の介護者1人:無料)。1枠の予約は最大8人までとなっている。会期は1月29日まで。

 なお、アンラーニング・ランゲージの受付のすぐ横には、iPadでインターネットの使い方に関する数十個の質問に答えると、あなたについての、とてもシニカルな分析を表示する「木澤佐登志のワクワクどうぶつ占い」という作品も展示されており、こちらの作品もおすすめだ。

インターネットの使い方に関する一連の質問に答えると、あなたについてのシニカルな分析を表示してくれる「木澤佐登志のワクワクどうぶつ占い」。筆者は「鳥」と診断された
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