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リリース直後に1600万リクエスト、押し寄せるbotの大群 「コードギアス」スマホゲームの安定運用を実現したクラウド活用術

» 2023年01月10日 12時30分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 2006年に放送され、今なお多くのファンを抱えるメディアミックス作品「コードギアス」シリーズ。展開はスマートフォンゲームにもおよび、21年にはiOS/Android向けに「コードギアス Genesic Re;CODE」(ギアジェネ)がリリース。ダウンロード数は22年12月時点で200万以上という。

photo コードギアス Genesic Re;CODE

 実は同作のリリースに当たっては、1つ問題があった。それはリリース直後の負荷対策だ。開発を手掛けたゲーム企業JORO(ジョーロ、東京都墨田区)の峰野和幸さん(リードエンジニア)によれば、リリース直後は100万超の新規ユーザーが連日押し寄せたという。サーバへのリクエスト数が1600万回に及ぶ日もあった。

 対するJOROは従業員数30人程度のベンチャーで、マンパワーにも余裕がなかった。しかし、同社はAWSの活用によって想定以上のアクセスを乗り越え、アクシデントなく無事にサービスを提供できたという。リリースまでの道のりを、峰野さんに聞いた。

当初の見込みは「20万DAU」 クラウド活用の背景は

 コードギアス Genesic Re;CODEは、コードギアスシリーズの世界観をベースにした作品。ロールプレイングと戦略シミュレーションを組み合わせたゲームシステムを特徴としている。

 ゲームの企画が立ち上がったのは2020年ごろ。当初は「特に強いIPのタイトルなので、20万DAU(1日当たりのアクティブユーザー)を見込んでいた」(峰野さん)という。スマホゲームはリリース直後にアクセスが集中し、その後落ち着いていく傾向にある。そこで、サーバの規模を拡縮しやすいクラウドの活用を決めた。

 AWSの活用は、先行事例が多く、ナレッジが蓄積していると判断したことから決まったという。ただし「人数が少ないこともあり、AWSに詳しい人材を社内に確保し続けるのも難しかった。そういった知識をアウトソーシングしたかった」と峰野さん。そこで、峰野さんが過去に関わった経験のあるNHNテコラスと協力し、基盤を構築することにした。

負荷削減でWAF導入 目的は「アカウント売買目的のBOT」対策

 基盤の構築に当たっては、まずJORO側がインフラの構成図を作成。NHNテコラス側がレビューし、それを基に実際の作業や負荷試験などに当たった。

 負荷削減に当たってポイントになったのはWAF(ウェブアプリケーションファイアウォール)だ。スマホゲームでよくある現象として、BOTの不正なアクセスによる負荷増大が挙げられる。BOTといえどアクセスが起きれば負荷となるので、対策が必要になる。BOTの目的はアカウントの売買だ。

photo システム構成図

 峰野さんによれば、スマホゲームではBOTを使ったリセマラ(リセットマラソンの略、ガチャで欲しいキャラやアイテムが出るまでインストールとアンインストールを繰り返すこと)で強いデータがそろったアカウントを作成・売買する行為がよくみられるという。

 人気IPがベースの作品であることから、ギアジェネも例外ではなく、BOTによる負荷増大が見込まれた。そこで、AWSが提供するWAFで、クラウド環境に導入しやすい「AWS WAF」を活用しての緩和を試みたという。

リリース直後は想定上回るアクセス それでもサーバは無事

 NHNテコラスとの取り組みは20年中ごろに開始。21年上半期中に基盤が完成し、同年10月のリリースにこぎつけた。

 リリース直後、DAUは当初の想定を上回り、100万を超える事態に。しかも数日それが続いたが、サーバをダウンさせることなく対応できたという。リリース後、人気のキャラクターなどが登場し、アクセスが一時的な増えたタイミングでも、サーバの規模を拡縮して対応できたとしている。

 BOT対策も効果を挙げた。1日当たり約50万アカウント分のBOTからアクセスが来るときもあったが、緩和に成功したという。リリース後も「いたちごっこは続いているが、WAFで遮断もしている。IDをフィルタリングするだけでは対応できなかったり、通信を暗号化しているのでAWS側で遮断できなかったりするときもあるが、よく使われるプロキシを基にはじくなどして対策している」(峰野さん)

ただしデータウェアハウスのコストに課題も

 一方、クラウドを運用し続ける中で課題も見えてきたと峰野さん。中でも問題なのはコストだ。「普段、ユーザーの動向をデータウェアハウスの『Amazon Redshift』を活用して調べているが、最低料金が高い」(峰野さん)

 2022年に発生した円安ドル高もあって、なかなかコストが抑えられなかったという。今後は別のデータウェアハウスの活用も検討する方針だ。

 ただ、AWSの活用自体は、別ゲームの開発でも続けていきたいと峰野さん。「他のクラウドを使ってほしいといわれることもあり、案件次第ではあるが、制約がなければAWSを使い続けたい」としている。

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