従って、AIが今よりももっと手軽になってくると、「自分が経験したこと」や「自分の思い出」をAIに学習させ、自分だけのオリジナルなAIを作ったり、それを形見として子孫に残していく可能性がある。
AIは人間が生きてきた証としてのミームを、場合によっては人間以上に忠実に継承してくれる拠り所となり得るわけだ。
こうして「自分の見た景色」を学習したAIは強力な思い出再生装置にもなる。筆者の知人の編集者は、十年前に奥様を亡くされた。彼女の写真を大切にとっていて、毎日フォトフレームを眺めては代わり映えのしない写真を見てため息をついていたのだという。
彼はAIを使って亡き奥様の写真を学習させ、「異世界の奥さんとの新しい思い出」が生成され続けていくことに夢中になり、ついにはAIで蘇らせた奥様の歌声とデュエットし、ミュージックビデオまで作ったという。
この、AIによってミュージックビデオを作るという行為は最近流行っているらしく、筆者が週末金曜日と土曜日だけ浅草橋で営業している「技研バー」のお客さまのなかにも、「自作の曲のミュージックビデオをAIを活用して作った」という話をされている方がいて驚いた。
でも考えようによっては、これは全く正しいAIの使い方ではないだろうか。音楽を作ったり歌ったりする、その時に画像がないと何か寂しい。しかし画像まで自分で作るのは骨が折れる。そんなときにAIを使えば、自分の足りない能力を補ってもらうことができる。
筆者自身も、前回の連載でAIを使って漫画を書いてみた結果、それにハマってしまい、この1カ月で描いたマンガが200ページを突破してしまった。少ないながらファンもついてきていて、筆者のnoteページで無料公開している。
最初は世の中に落ちているAIを使うだけで満足していたが、オリジナルのキャラクターや宇宙船を出すためにAIに数十枚程度の絵を学習させると、自在にキャラクターの表情をつけたりすることができる。
ポージングも、かつては難しかったが、今はMemeplexの下絵機能を使うと欲しいポーズを簡単につけることができるようになった。
AIを使った自己表現、いわゆる広い意味での「アート」の探求はまだ始まったばかりだ。しかし結局は使う人間の発想やチャレンジ精神が大切になる。
AIアートが普及していく中で、オリジナリティを出していくには、実は自分自身が街に出かけて行って写真を撮ることが、最も重要かつ決定的な差になるというのは実に面白い発見だった。
今後も独自のAI用データ素材を集めてどんどん学習していって自分だけのAIを作っていきたい。きっとこれは大きなムーブメントになるのではないだろうか。そんな気がしてならないのだ。
新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。2005年、IPA(情報処理推進機構)より「天才プログラマー/スーパークリエイタ」として認定。株式会社ゼルペム所属AIスペシャリスト。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。
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