「失われた30年」という危機感は昭和の人にしか伝わらない。イノベーションや社会の成長を続けるには、次世代の人たちを鼓舞するような動きが必要だ――これは、経済産業省内でイノベーションを議論する委員会の中であった発言だ。
日本の成長を担う若者たちの声を政策に生かすため、経済産業省は30代以下の若者を集めた会議を2019年に設置。「官民若手イノベーション論ELPIS」と題して、30年後の未来を産官学の若者100人と議論した。そして半年後の20年4月、若者が描くビジョンをまとめたレポート「企業・大学・官庁の若手が描く未来のたたき台」が完成した。
レポートの冒頭にはこう書かれている。「若手の発想力と実行力、ベテランの知恵・経験・リソースが必要です。(中略)誰か1人じゃない、未来づくりはチーム戦、“全世代型イノベーション”です」
これは企業や教育機関などあらゆる組織に共通している。組織内でのコミュニケーションを活性化して、若者とベテランの力を最大限に発揮できる環境作りが求められる。では、世代間でどう対話すればいいのか。そもそも若者はいま何を考えているのか。
そこでITmediaでは、官民若手イノベーション論ELPISの発起人である八神実優さんをITmedia主催のオンラインイベントに招き、会議の進め方や若者が描き出した未来の姿について語ってもらった。この記事では、同イベント「Digital Business Days SaaS EXPO 2023Winter」(1月31日〜2月19日)の開幕に先立って、八神氏の講演の一部をお届けする。
そもそも官民若手イノベーション論ELPISが発足するきっかけになった委員会は、傍聴人を含む参加者約100人のうち大半がスーツ姿の男性で、若者といえるのは10人程度だった。若者も入れて議論すれば異なるアウトプットが出るのではないかという思いが、八神さんたちを動かした。
そして官民若手イノベーション論ELPISに参加した若者たちは半年間の議論を経て、未来を作る鍵が全世代型イノベーションにあるとたどり着く。「若者だからといって革命的に組織を覆したいわけではありません。若者の機敏性や発想力と、ベテランの経験や知恵、人脈、権限を生かしてコラボレーションすることが大切です」(八神さん)
そして目指す未来には5つの価値変化があると、若者の視点でまとめた。例えば「コミュニティー」では、会社や部署に依存する組織重視の姿「フォルダ型」から、興味関心やプロジェクト単位で組織を飛び越えてつながる「ハッシュタグ型」になるという。
この他、八神さんは「マインドセット」「研究」「ビジネス」「社会」それぞれの価値変化について若者の考えを交えながら詳しく紹介した。
官民若手イノベーション論ELPISの取り組みが認められ、経済産業省の副大臣や政務官などにも注目されることに。さらに菅首相(当時)が温室効果ガスを50年までにゼロにすると表明した際には、経済産業大臣の呼び掛けで「カーボンニュートラルに関する若手ワーキンググループ」が生まれた。
若者の声を政策に取り入れるという成果を遂げた官民若手イノベーション論ELPISの取り組みを振り返って、八神さんは成功のポイントに「問いの立て方」「対話の仕方」「聞く姿勢」を挙げた。これは企業にも通じるものがあるという。その中身は、ぜひオンラインイベントの講演でチェックしてほしい。
八神さんの講演は、1月31日の午後1時からオンラインで配信する。視聴は無料だ。また、このイベントでは元テレビ東京プロデューサーの佐久間宣行氏や、Tesla超えを目指す自動運転EVベンチャーの山本一成CEOが基調講演に登壇する。加えて1月31日〜2月9日までは、テーマごとに八神さんら8人の講師を招いている。こちらから事前登録が可能だ。
【開催期間】2023年1月31日〜2月19日
※アーカイブ配信期間:2月10〜19日
【視聴】無料
【視聴方法】こちらより事前登録
※ 記事冒頭の発言は、経済産業省の「第13回 産業構造審議会 産業技術環境分科会 研究開発・イノベーション小委員会」における塩瀬隆之委員(京都大学総合博物館 准教授)のもの。
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