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Apple減収減益でもiPhoneシェア拡大、「全員敗者のスマートフォン市場」浦上早苗の中国式ニューエコノミー(3/5 ページ)

» 2023年02月09日 07時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]

世界最大のiPhone工場で従業員10万人不足

 目算が狂ったのは、22年秋の新型コロナウイルスの感染再流行だ。世界のiPhoneの半分を生産する鴻海精密工業(ホンハイ)の鄭州工場で10月に感染者が出ると、同工場はゼロコロナ政策を理由に従業員の行動を厳しく制限した。

 毎年夏ごろから季節労働者を雇用し、ピーク期には約30万人が働く同工場では、感染への不安と行動制限への不満で従業員が大量離脱。10月末には約10万人の欠員が生じた。鴻海は工場の正常化を急いだもの、22年末時点の稼働率は70%以下にとどまり、人気が高かった上位機種のiPhone 14 Pro、iPhone 14 Pro Maxの供給が滞った。

 9月に新商品が発表されるiPhoneは、11月の独身の日(ダブルイレブン)、ブラックフライデー、12月のクリスマスシーズンまでが需要のピークだ。鄭州工場の混乱はAppleにとって最悪のタイミングだった。

 鄭州工場の混乱は、生産の中国一極集中のリスクを改めて浮き彫りにした。中国メディアの報道によると、今回の騒動で鴻海はインドへの生産移転の加速を決断し、今後2年でインド工場の従業員を、現在の4倍である7万人に増やす計画を立てた。

 鄭州工場での生産減少を補うため、江蘇省昆山工場でiPhone 14 Pro Maxを少量生産するようになった中国EMSの立訊精密工業(ラックスシェア)は、Appleの「脱中国」の要請に応じ、ワイヤレスイヤホンのベトナムでの生産を拡大している。

 ただ、幅広い産業でグローバル企業との協業の歴史が長く、分厚いサプライチェーンが構築された中国からの移転は容易ではなく、最新鋭のiPhoneついては当面は中国に依存せざるを得ないだろう。

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