ネットにある無数の情報をどう使うのか? 創業以来、そこに技術開発を注力し、ビジネスの種としてきたのがGoogleだ。
チャットベースのUIがもたらす変化も、結果的にはGoogleがやってきたことと同じ道筋の中にある。
実際、GoogleがBingのようなチャットベースUIの利点を理解していないはずがないのだ。
だが、彼らはここまで「シンプルなチャットベースUI」を作らずにきた。
理由は複数あるだろう。Open AIが作っているような「自然な文章を生成する大規模言語モデル」を活用する上で、遅れている部分があったのかもしれない。彼らは複数の技術を開発しており、それらを組み合わせることで「内容が多岐にわたる複雑な質問」に回答する検索エンジンを作ろうとしてきた。
その中でGoogleが重視していた方法性は2つあった、と筆者は分析している。
1つ目は「画像」。リアルな世の中にある情報を検索可能にしていく、という流れで考えると、文章やキーワードは情報量が少ない。画像の方が情報量は多く、しかも、スマートフォンを使えば文字入力より簡単に処理できる。
2つ目は「多言語」。ネットの上にはいろいろな情報があるが「言葉の壁」がある。日本語で検索すると、基本的には「日本語で書かれたページ」が検索対象になる。英語ならそれでもまだ出てくるが、フランス語やドイツ語になると難しい。
ネットから正しい答えが得られるようにするためには、多数の言語を透過的に扱える方がいい。
これらのことからGoogleは、特に「画像認識」と「MUM(Multitask Unified Model)」に力を入れてきた。画像や多数の言語を並列に扱い、ネット検索の精度と価値を高める方に注力していたわけだ。
そのことは、スマートフォンを軸にした価値構築、リアル世界の情報をネットと地続きにしていく、という意味では非常に大きな価値がある。
だが、「検索ユーザーインタフェースの変化」として見ると、チャットUIほど劇的に変わったように見えない。
Googleの施策があまり話題にならず、Bingの変化が話題になるのは、より「劇的に変わった感」があるものだからだ。
また、GoogleはLaMDAを使ったチャット検索「Bard」を発表しているものの、実際に多くの人が使える形では公開しなかった。結果として、SNS上の「バズの量」が少なくなっている。このことも大きいだろう。
Googleは検索の妥当性・正確性にかなりの責任を感じている。それでも多数の間違いが生まれたり、悪質な業者にアルゴリズムをハックされ、質の悪いサイトが検索上位に上がってきてしまったりもする。
チャットUIによる検索の「妥当性」「安全性」はまだ検証中であり、Googleとして全面的にアピールしづらい、という理由も分かる。
それを「王者の保守性」「チャンピオンのジレンマ」というのは簡単だ。
今後、チャットUIベースの検索は主流になるのだろうか?
筆者は「多くなっていくが、従来の検索も使われるだろう」と想像している。スピードと「慣れ」の面から、結局従来型検索の方がいい、ということは多くある。
しかし、チャットUIをアシスタントのように使い、「〇〇という話がどうなっているか確認しておいて」と質問を投げて作業を進めつつ、答えが出たあたりで中身を確認する……という使い方は確かに便利。今後、スマートフォンやスマートスピーカーに実装されれば、もっと使いやすくなっていくだろうとは思う。
だがその性質上、多様な情報に接するのは難しくなる。1つの答えしか目の前に提示されない状態になるからだ。検索の先にあるWebサイトに価値は落ちづらくなるし、ページビューも伸びないので広告価値も伸びない。
広告については特に深刻で、「チャットUIにあったネット広告の在り方」がまだ見いだせていない状況でもある。Microsoftはどうするのか気になっていたのだが、彼らもまだ答えを提示できる状況にはないのか、と感じる。
Googleが慎重なのは、現状のネット広告の中でチャット検索がどう扱われるのか見えていないから、という部分もあるのかもしれない。それでも「Bard」を発表したのは、このトレンドに乗り遅れることが結果的に大きな問題になる、という認識があってのことなのだろう。
チャットによる検索が定着するには、ビジネス上の価値が定着する必要もある。ただその時、今のPC上ではなく、スマートフォン・スマートスピーカーを含めた、幅広いデバイスと連携して生まれていくことになるだろう。
そしてその部分は、現在のスマートフォン・スマートスピーカーでも完全に出来上がっていない世界である。
だとするならば、GoogleとMicrosoftの戦いだけで終わる、とは思えない。
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