アナログのサンプラー、古代のサンプラーなどと表現される「メロトロン」という不思議な魅力を放つ鍵盤楽器があります。メロトロンを「マネ」したアプリ「マネトロン」の開発者である山崎潤一郎がメロトロン愛をさく裂させます。
実機を手に入れたことがきっかけで、約1年前にメロトロンアプリ開発の経過を報告する目的で始めたこの連載も今回で筆を置く。22年10月に、iOS/iPad OS版、Android版ともに無事アプリがリリースされたからだ。そこで本稿では、メロトロンという唯一無二の楽器が持つ魅力や逸話、そして、3Dプリントしたミニチュアモデルなどを紹介して連載の幕を引きたい。
さらに、文末には実機を間近に見ることができ、試奏も可能なリアルイベントの予定も紹介している。この唯一無二の歴史的楽器を体感できるチャンスだ。
そもそも、メロトロンとはどのような楽器なのだろうか。その源流は、1940年代にさかのぼる。ハリー・チェンバリンという米国人が、オルガンとテープレコーダーの仕組みを合体させることで、本物の楽器の音色を鍵盤による演奏で再現できると考えたのが事の発端だ。
今から考えると、至って単純で、誰でも思い付きそうな発想ではあるが、それを実行に移して「Chamberlin」という実際の楽器として結実させたところが偉大でありイノベーティブだ。ネット上に点在するチェンバリン氏の逸話から、ものづくりの大好きな職人気質の性格であったことが想像できる。あくまでも筆者の私見だが…。
例えば、アイデアに感銘を受けた出資者からの資金提供を断ったり、雇い入れたセールス担当者が全米を回って決めてきた代理店契約を「直接アーティストに売りたい」と忌避するなどしている。何というか、「良いものは口コミでも売れる」といったところであろうか。
そのセールス担当者は悪いやつで、製品化されたChamberlinを無断で英国に持ち込み、自分の名前を冠した楽器として、「Mellotron」を製造したStreetly Electronics社の前身となる会社に売り込んでいる。結果的に、それがMellotronとして後に製品化されたわけで、後生のわれわれからすると不幸中の幸いと言えなくもない。
当然、両者間で係争が発生したわけだが、最終的に、Streetly Electronicsがロイヤリティーを支払ったり、Mellotronは英国内のみ、Chamberlinは米国内で販売するというすみ分けの形で決着している。ただ、本家のChamberlinは、1970年代になって、シンセの発達や楽器のデジタル化の波に飲み込まれる形で生産を終了している。チェンバリン氏は1986年に他界している。
その後、メロトロンは改良を重ねつつ、数多くのモデルが世に送り出される。各モデルの詳細を写真で確認したければ、メロトロン紹介サイト「Out of Phase」をのぞいてみるといいだろう。古いモデルはもちろん、2007年に登場した「M4000」という最新のメロトロンまでが紹介されている(デジタル機種は除く)。同じモデルでもバリエーションの違いや細かなパーツの写真などマニアにはたまらない情報であふれている。
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