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顔にボトックス注射を打つと脳が混乱? 他人の表情を読み取りづらくなる 米国チームが発表Innovative Tech

» 2023年04月03日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2

 米University of California Irvine(UCI)に所属する研究者らが発表した論文「Modulation of amygdala activity for emotional faces due to botulinum toxin type A injections that prevent frowning」は、ボトックス注射を顔に投与することで、感情に関わる脳活動が変化することを実証した研究報告である。

感情的な顔の処理に関与する神経解剖学的回路

 神経に作用し筋肉の動きを止めるボトックス(A型ボツリヌス毒素)注射を顔に投与すると、シワが滑らかになり目立ちにくくなるため、アンチエイジングの分野で普及している。ボトックスは筋肉をまひさせるため、副作用として顔全体で顔をしかめたり笑ったりすることがしにくくなる。

 他方で、人は無意識のうちに怒りや喜びの表情を見たとき、関連する筋肉を収縮または屈曲させて表情をまねし、相手の感情を識別することを支援している。ボトックス注射を投与すると顔の筋肉が弛緩するため、このまねができず感情識別に影響があるのではと研究チームは考えた。

 実験では、33歳から40歳の女性10人にボトックスを額に注射し、投与する前と後(注射後2〜3週間後)の2回に分けて磁気共鳴機能画像法(fMRI)で脳をスキャンした。その際、参加者には怒った顔や楽しい顔の写真を見てもらった。

 結果、脳を分析すると、投与前と投与後では怒った顔と楽しい顔を見たときの扁桃体という脳領域の活動が変化し、楽しい顔を見たときには「楔状回」(けつじょうかい)という脳領域の活動が変化したことが確認された。

 顔の筋肉が相手のしかめっ面や笑顔をまねることで、扁桃体や楔状回といった感情を解釈する脳部位に信号が送られることから、投与前後で扁桃体や楔状回が変化したということは脳でなんらかの事象が起きたといえる。この結果により、顔と扁桃体や楔状回との間のコミュニケーションがボトックスによって阻害される可能性を示唆した。

Source and Image Credits: Stark, S., Stark, C., Wong, B. et al. Modulation of amygdala activity for emotional faces due to botulinum toxin type A injections that prevent frowning. Sci Rep 13, 3333(2023). https://doi.org/10.1038/s41598-023-29280-x



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