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ChatGPTに“追悼文”を書かせるのは失礼なのか? 米国で物議に 求められる第三者への配慮事例で学ぶAIガバナンス(1/3 ページ)

» 2023年04月27日 13時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 ChatGPTの快進撃が止まらない。さまざまなリスクが指摘されている一方で、業務効率や生産性を高めるテクノロジーとして注目されており、導入に踏み切る企業や組織が相次いでいる。4月18日には大和証券が全社員を対象にChatGPTを利用可能にすると発表した他、神奈川県横須賀市も全国の自治体で初となる試験導入に踏み切ると発表した。

 また19日には自民党のデジタル社会推進本部が、高市早苗科学技術政策担当相に対し「AIの進化と社会実装が新たな経済成長の起爆剤となりうる」との提言を手渡すなど、政治の面からも普及を後押しする動きが出ている。

 ただ、あまりに早急な活用はあつれきも生むようだ。そうした摩擦に注意していないと、思わぬ形で炎上につながる恐れがある。

追悼文をAIが作成 米国で物議に

 2月、米ミシガン州立大学に武装した43歳の男が侵入し、銃を乱射して3人が死傷するという事件が起きた。犯人の男は自殺したとみられ、数時間後に遺体で発見された。この事件に対し、全米のさまざまな組織から追悼の意が表された。その一つが、テネシー州の米バンダービルド大学ピーボディ校である。

 同校はミシガン州立大学の事件に際し、メールで次のようなメッセージを発信した。

米バンダービルド大学ピーボディ校が公開した追悼文

 最近ミシガン州で起きた銃乱射事件は、差別のない環境をつくるという観点から、お互いを互いを思いやることの重要さを痛感させるものです。ピーボディ・キャンパスのコミュニティーの一員として、このような事件による影響を考慮し、全員にとって安全で寛容な環境をつくるために最善が尽くされているか確認する必要があります。

 当校において、互いに配慮する文化を醸成するには、あらゆる人が互いに強い関係を結ぶのが重要です。これには、異なる背景や考え方を持つ人々と積極的に関わり、彼らの話に耳を傾け、共感し、認めることが大切です。また、発せられる苦痛のサインに気付き、精神的問苦痛を感じている人たちを手助けすることで、互いに気を配ることもできます。

 尊敬と理解の文化を醸成するのも重要な考え方の一つです。これは、当校に存在する多様な経験や考え、アイデンティティーを尊重し、誰もが歓迎され、認められる場を作る努力を積極的にすることを意味します。そのためには、互いに耳を傾け、新しい視点を求め、自らの思い込みや偏見を克服することが必要です。

 最後に、安全で何者をも排除しない場を作るということが、絶え間ない努力とコ人々の献身を必要とする、息の長いプロセスであることを理解する必要があります。私たちは、どうすればよりよい世界を実現できるのか、失敗から学び、より強く、より寛容なコミュニティーを構築するために協力し合うことができるのか、話し合いを続けなければなりません。

 ミシガン州の銃乱射事件を受け、私たちは互いを思いやり、何物をも排除しないという文化を醸成するという理念を再度強く心に刻むため団結します。そうすることで、この悲劇の犠牲者に敬意を表し、全ての人にとってより安全で思いやりのある未来に向けて努力することができるのです。

 特におかしなところはなく、共感と前向きな姿勢を示す良いメッセージといえるだろう。ただこの本文の後に、「Paraphrase from OpenAI's ChatGPT AI language model」という一言が添えられている。これは「OpenAI社が開発したAI言語モデルであるChatGPT(が書いた文章)を改変したもの」といった意味だ。つまりピーボディ校の担当者は、ChatGPTを使ってこの文章を考え、そのことを正直に告白していたのである。

米バンダービルド大学はChatGPTで制作した追悼文を発表し炎上した

 なぜこの担当者が、ChatGPT利用を告白したのかは分からない。推敲(すいこう)したものの自信がなく「ドラフトを作ったのはあくまでAIですよ」と言い訳したかったのかもしれない。あるいはバンダービルド大学にAI利用ガイドラインのようなものがあり、ChatGPTのようなAIツールを活用した際には、それを公にするルールが設けられていたのかもしれない。

 いずれにしても、この追悼文がAIの力を借りてつくられたものであると、明記した上でメールを発信していた。

 その結果、多くの人々がこのメールに反発した。例えば同大の大学新聞であるバンダービルド・ハスラー紙は、「コミュニティーや団結についてのメッセージを、自分で考えるのが面倒だからコンピュータに書かせるというのは最低の皮肉だ」「自分の純粋な気持ちを言葉に置き換える時間すらかけなかった、と知ってしまうと、そのメッセージを真剣に受け止めるのは難しい」といった学生の声を紹介している。

 「そもそもロボットに追悼文を書かせるなんて」という意見も少なくないようだ。こうした批判の声を受けて、ピーボディ校は追悼文が発信された翌日、今度はこの騒動に対する謝罪文を発表した。

 先ほどのバンダービルド・ハスラー紙の記事によれば、同校はこの中で「(当初の)メールにあった全ての人にとって寛容な環境というメッセージを支持する一方、悲劇という状況下で、かつそれに対応しようとしている際に、ChatGPTを使ってコミュニティーを代表するメッセージを発信するのは、ピーボディ校の掲げる価値観とは矛盾する」と釈明している。

 ちなみに同紙が確認ツールを使ってチェックしたところ、この謝罪文はChatGPTを使っておらず、人間が一から考えて書かれたものである可能性が高いそうだ。

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