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ChatGPTに“追悼文”を書かせるのは失礼なのか? 米国で物議に 求められる第三者への配慮事例で学ぶAIガバナンス(3/3 ページ)

» 2023年04月27日 13時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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AIが書いたと名乗らなければ、見分けはつかない?

 最近、米コーネル大学が興味深い研究結果を発表した。米国で7132人の州議会議員に対し、約3万2000通の陳情文をメールで送信するという実験を行った。ただしその半分は人間、もう半分はAIが書いたもので、どちらが書いたかは議員側には明かされなかった。そしてどのくらい返事が返ってきたかを確認したところ、人間が書いた場合の返信率は17.3%、AIが書いた場合は15.4%と、ほぼ差がなかったそうだ。

米コーネル大学が発表した論文

 つまり人間もAIも、文章だけで勝負した場合、等しく人間の心に訴えることができるのである。しかもこの実験に使用されたエンジンは、最新のGPT-4ではなく、GPT-3であった。

 とはいえ、こうした観点や実験結果から「AIに追悼文を書かせるなという方が間違いであり、そんな声は無視してどんな文書の作成にもChatGPTを使うべき」と吹っ切れるかというと、それも暴論だろう。

 会議依頼のように事実を伝えることのみが目的のメッセージもあるが、謝罪文や追悼文の目的は、あくまでそれを受け取る人々の感情に寄り添うことだ。その相手が「ロボットが書いた文章は感情的に受け入れがたい」と言うのであれば、それに従うことがメッセージの発信者に求められる至上命令なのである。

 これは何ら難しい話ではない。これまでも私たちは「どのように伝えるか」でメッセージの受け取られ方が変わることを体験してきた。例えば以前であれば、謝罪や追悼をメールで行うこと自体が批判されただろう。そして企業で働く人々はその慣習に従って、メールで一言送信するのと変わらない内容を手紙にしたり、あるいは電話をかけたりして伝えてきた。

 そうした方が、「申し訳ない」という気持ちをメッセージを受け取る側がより感じてくれる、と理解していたからである。英文学者のマーシャル・マクルーハンではないが「メディアはメッセージ」というわけだ。

 そうした慣習や感情は変化するものである。例えば最近ではメールはおろか、LINEで退職の意思を伝えるのが許されるかどうかというレベルにまで話が進んでいる。しばらくすれば、たとえ謝罪文でもAIがドラフトを作ったかどうか気にする人は少数派になるだろう。

 とはいえ気にするかどうかの判定は、あくまでメッセージを受け取る側にある。関係者の感情に寄り添うこと、それはAIを導入する場面で常に求められる姿勢といえる。

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