インボイス制度や電子帳簿保存法の改正を受けて、受取請求書サービスが盛り上がりを見せており、本連載でも過去2回取り上げた。一方で、請求書を発行する側については、インボイス制度に対応するために適格請求書番号の記載を追加などのレイアウト修正はあるが、そこまで大きな変化は見られない。
請求書を発行する、という処理だけでいえば、Web上で探せばExcelやWordの無料フォーマットも見つけることができ、freee会計やMFクラウド会計などに付属する機能でも対応することもできる。請求書発行という機能だけでサービスを継続することは非常に難しく、多くのツールは姿を消していった。
そんな中において未だにユーザー数を増やしているのがboard(ボード)である。単に「請求書を発行する」だけでなく、その前後の業務プロセスをうまく機能に組み込むことでユーザーの支持を得ているのだ。本稿では請求書発行ツールとboardの違いについて紹介する。
2010年代初期の請求書発行ツールの代表格に、Misoca(ミソカ)というサービスがある。
Misocaは、プログラマーである豊吉隆一郎氏と松本哲氏によって11年にリリースされたクラウド請求管理ツールである。当時はまだクラウド上で完結する請求管理ツールは少なく、無料で使える範囲も広かったことから個人事業主や中小企業の間ですぐに評判となり、あっという間に数万の登録事業者を有するサービスとなった。その後、16年に業務ソフトウェア「弥生シリーズ」を展開する弥生に買収され、現在に至っている。
当時は私の周囲でもMisocaを使っている人が多くいたが、その後MFクラウドやfreeeなどがクラウド型の請求書発行ツールをリリースし、あっという間にその地位を失ってしまった。見積書・請求書・納品書が発行でき、メール送付や会計ソフトへの連携ができるという至ってシンプルな機能であり、Misocaでしか使えない独自機能はない。弥生シリーズの「弥生販売」がパッケージ型ソフトであり、Misocaを買収することでクラウド請求書発行ツールを補完する狙いがあったものと思われるが、あえてMisocaを選ぶだけの理由を提示できなかった。
10年代にはたくさんあったクラウド型の請求書発行ツールのほとんどが姿を消し、MFクラウド請求書やfreee会計の請求書発行機能がそれらを代替している。見積書を作成し、それを請求書に変換して発行する、という機能だけでユーザーからすれば必要十分であり、そこに何らかの差別化要素を見いだすのは難しい。
ある程度の企業規模になればSFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)から請求書を発行するようになるが、小規模な事業者の場合は会計ソフトとセットで提供される請求書発行ツールを利用することで事足りるのである。
個人事業主なども数枚の請求書であれば、無料の請求書発行ツールでも対応でき、Excelで作ることも容易である。
請求書を発行する、という機能を提供するだけではもはやビジネスとして成立することは難しくなっている。そんな中において、boardが築いたポジションは非常にユニークだ。
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