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生きたヒトの細胞で“心臓の心室”を3Dプリント 100日以上自発的に拍動 ドイツの研究者らが開発Innovative Tech

» 2023年06月28日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2

 ドイツのFriedrich-Alexander-Universitat Erlangen-Nurnberg(FAU)とJulius Maximilians-Universitat Wurzburg(JMU)に所属する研究者らが発表した論文「Direct 3D-bioprinting of hiPSC-derived cardiomyocytes to generate functional cardiac tissues」は、ミニチュアサイズの心臓の心室を生きたヒトの心筋細胞で3Dプリントする手法を提案した研究報告である。100日間以上の自発的な鼓動を確認できた。

ヒトの心筋細胞で3Dプリントした心室

 研究チームは、まず生きた心筋細胞に、心臓組織の構造を形成するためのコラーゲンタンパク質とヒアルロン酸を混ぜた特別なインクを作成した。次に、ノズルを使用してこの特別なインクをゲルの中に注入し、インクを希望の形状に整えた。その後、ゲルを溶かすことで、印刷した構造物が残るようにした。

 この技術を用いて、8(直径)×14(高さ)mmという、実際の人間の心室よりも約6倍小さい風船状の心室の構造を3Dプリントすることに成功した。この心室は、1週間後に自発的な鼓動を始め、100日後も鼓動を継続した。また、本物の心臓と同様に、興奮剤を投与すると鼓動が速くなることも確認できた。

ゲル内アプローチにより、機能的な心室モデルの3Dバイオプリンティングが可能に

 研究チームは、この技術を用いて、4つの部屋を持つ心臓全体を印刷し、それが鼓動するようにしたいと考えている。しかし、この目標にはいくつかの課題がある。例えば、実際の大きさの心臓は、筋肉組織に適切な酸素と栄養を供給するために血管が必要だ。次の段階では、印刷した心臓組織内で血管が成長することを期待し、そのために血管細胞を含んだインクを追加する予定。

Source and Image Credits: Tilman U. Esser, Annalise Anspach, Katrin A. Muenzebrock, Delf Kah, Stefan Schrufer, Joachim Schenk, Katrin G. Heinze, Dirk W. Schubert, Ben Fabry, Felix B. Engel. Direct 3D-bioprinting of hiPSC-derived cardiomyocytes to generate functional cardiac tissues. bioRxiv 2023.06.12.544557; doi: https://doi.org/10.1101/2023.06.12.544557



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