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「GAFAが国のデータを独り占めしているという批判もあるが……」 日本の公共クラウド活用、AWSの目にはどう映る?(1/3 ページ)

» 2023年06月28日 18時00分 公開
[本多和幸ITmedia]

 公共分野におけるクラウドのニーズは年々高まっている。政府が2018年にいわゆる「クラウド・バイ・デフォルト原則」を打ち出したことが契機となり、直近では地方自治体の基幹業務システム標準化と合わせた「ガバメントクラウド」の利用推進も市場の拡大を後押ししている。

 さまざまなITベンダーが公共分野向けのビジネスに力を入れる中、特に存在感を強めるのは、ガバメントクラウドの調達対象として選定された大手クラウドベンダーだ。2021年度にいち早くガバメントクラウドの対象サービスとなったAWSも例にもれず、自治体向けのサービスなどに注力している。

 一方、SNSなどでは大手海外ベンダーに対し「日本の貴重な情報が海外に流れる」と批判する声も多い。こういった意見の受け止めも含め、業界最大手でもあるAWSは日本の公共クラウド市場をどのように分析し、事業の成長を図ろうとしているのか。AWS日本法人の宇佐見潮執行役員に聞いた。

ALT アマゾンウェブサービスジャパン執行役員パブリックセクター統括本部長の宇佐見潮さん

クラウドに期待されているのは「データの民主化」

――日本の公共向けクラウド市場について、AWSや宇佐見さんがどう見ているか率直に教えてください

宇佐見さん クラウドサービスというのは、優れた技術を誰でも手軽に使えるようになる「テクノロジーの民主化」を促すもので、経済の競争環境をシャッフルするような大きなインパクトがあります。さらに重要なのは、クラウド活用が「データの民主化」にもつながることです。

 しかし、組織ごとに閉じた仕組みの中にデータが置かれているだけでは、紙に書かれた情報と変わらないわけです。特に公共分野には、二次的に利用する環境を整えることで社会全般に大きな価値をもたらす可能性を秘めたデータがたくさん埋もれています。例えば地図情報や交通渋滞に関する情報などは代表例ですよね。

 行政の窓口で手続きがスムーズになるのもデジタル化によるメリットの一つですが、これは処理の高速化でしかないともいえるわけです。その枠にとどまらず、デジタル化によって蓄積されたデータを、多くの人がメリットを得られる便利な官民のサービス創出につなげ、データの価値を社会に還元できるようにすべきだという意識が日本の公共分野でも高まっているのは間違いない。そのための仕組みづくりに適した特性をクラウドは持っていて、果たす役割は非常に大きいというのが私たちの理解です。

「データを独り占めしている」という批判もあるが……

――民需のビジネスと公共向けビジネスとでは、市場に対する視点が違うとも受け取れます。公共向けビジネスにおいては、インフラを提供する以上に、データ活用・流通の仕組みを提供することが商機になるということですか?

宇佐見 そうですね。私たちを含めて米国の大手IT企業に対しては「GAFAがデータを独り占めしている」という批判をよく聞きます。ただ、そういう批判があるというのは、データから得られる示唆がビジネスに大きく貢献できることの証左でもあると思うんですね。

 そして社会的課題がどんどん顕在化していく中にあって、公共分野ではむしろもっとデータの民主化と活用を進めていかなければならないというのがAWSの問題意識です。特に医療や教育、防災といった領域は“待ったなし”です。

 個別の機関のシステムをオンプレミスからクラウドに移して効率的に動かしたいというようなニーズも、もちろんあります。しかしより重要なのは、公的な情報を広く活用できるようにするための基盤を整備して、情報の価値を社会に還元する仕組みとサイクルをつくり、真の意味でデータの民主化を実現することです。近年の「都市OS」(都市の基盤を整える機能を持つソフトウェア)やガバメントクラウドの構想も同様の文脈に沿ったものと捉えています。

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