このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2
中国の南開大学と米Indiana University Bloomingtonに所属する研究者らが発表した論文「How Are Your Zombie Accounts? Understanding Users’ Practices and Expectations on Mobile App Account Deletion」は、使わなくなったモバイルアプリにおけるアカウント削除に関する調査を行った研究報告である。
ユーザーのアカウント削除に対する意識や実践、期待を探るために、2つの国(米国279人、中国368人)を対象とした647人の参加者によるオンライン調査と、さらに20人の参加者による現地インタビューを実施した。このアンケートは、60の人気モバイルアプリのアカウント削除プロセスに関する実証的な測定に基づいて設計されている。
結果は以下に示す通りである。まず、オンライン調査では、ほとんどの参加者が個人情報保護のために行動することに積極的であり(89%)、アプリを使わなくなったときにアプリベンダーにデータを使われ続けることを望んでいない(95%)と回答した。
しかし、アンインストールしたアプリのアカウント状況について尋ねた結果、「1〜2回しか使わず、もう使わないかもしれないのでアンインストールした」を選択した人(86%)は、「もう使わないアプリをアンインストールする前にしていることは何ですか」という質問に対して、アカウントを削除した人は3分の1以下(26%、145人/554人)で、半数以上(57%、314人/554人)が「何もしない」と回答した。総合的には、75%が“ゾンビアカウント”を保持しているという結果となった。
(上)端末に残っているアプリにおいてアカウントを削除しているか。削除したが青、していないがオレンジ、(下)端末からアンインストールしたアプリのアカウントを削除しているか。削除したが青、していないがオレンジアカウント削除に関するユーザーの理解を調査する中で次のようなことが分かった。ほとんどの参加者の認知は、アプリベンダーの主張とは異なり、例えば、半数以上の参加者が、アカウント削除後も個人情報は削除されない(57%)、削除は元に戻せる(61%)と考えていた。また45%の参加者が、利用停止とはデータを削除することだと誤解していた。
次に、ゾンビアカウントのリスクを知っているか、ゾンビアカウントによるトラブルを経験したことがあるかを尋ねた結果、半数以上の参加者が懸念を表明した。
懸念を表明した参加者ほど、実際にアカウントを削除する可能性が高いことが分かった。10%の参加者が、アカウントを適時に削除しないことによる影響を経験したことがある、または聞いたことがあると回答。そのうちの一部(56%、35/63人)は、トラブルの経験を回答した。
参加者が遭遇したトラブルは、(1)メール、メッセージ、電話などのしつこい宣伝プッシュ(60%、21/35人)、(2)他社からの嫌がらせメッセージ(34%、12/35)、(3)自動課金など金銭的損失(6%、2/35)の3種類に集約できた。
他にも「初めてアプリを使ったのに、他人のアカウントを使ってしまった」という経験の有無を聞いた結果、22%の人が「ある」と回答した。
次に、アカウント削除に失敗した理由として、62%(62人/100人)の参加者が、「アカウント削除の選択肢がなかった、少なくとも簡単には発見できなかった」と回答した。また、58%(58/100人)の人が「手順が多すぎてうまく削除できなかった」と回答した。アカウント削除の操作が不親切に設計されていることが、かなりの数の参加者のアカウント削除を妨げていること分かった。
アカウント削除について詳しく説明されていると思われるプライバシーポリシーをどの程度見ているかを尋ねた結果、「読んだことがない」(37%)、「ざっと見たことがある」(56%)という回答が多かった。
分析すると、アカウント削除までに平均して1つのアプリにつき13.04回のクリックが必要であることが分かった。最も困難な例では、Weiboのアカウント削除エントリーを得るために72回もクリックする必要があった。この過程で、約半数(50%)の参加者(20人中の10人)が検索エンジンの助けを借り、3人(15%)がカスタマーサービスに助けを求めた。
アプリの中には、アプリ外での削除操作(Webサイトへのアクセスやメール送信など)が必要なものもあるが、追加の質問を行った結果、91%(279人中の253人)の参加者がアプリ内でアカウント削除ができることを希望していた。わざわざブラウザを立ち上げてWebサイトにログインする必要がないことが求められている。
アプリの中には削除処理をしてからすぐに削除されるのではなく、数日後に削除するアプリも多くある。アカウント削除申請後に削除を撤回する機能を望むかを尋ねた。その結果、44%の人が「すぐに個人情報が削除されること」を期待していた。また、ほぼ全員(90%、584人/647人)が7日以内のデータ削除を希望していた。アプリの平均的な削除期間は14.75日であり、最も短いものは即時削除で、最も長いものは1年かかるものであった。
自由回答の中で、24%(327人中80人)の参加者がアカウント削除の実際の影響について懸念を示した。アカウント削除後、データが完全に削除されたことを確認することは非常に重要だが、一般のユーザーとしては、それを確認することは困難である。
長期間ログインしない場合に自動的にアカウントが削除されるベンダーが存在することを観察した。そのため、オンライン調査では、参加者がこのアカウント削除に関連するサービスについてどのように考えているかを尋ねた。調査結果から、参加者の46%が前向きな姿勢を持っていることが分かった。
Source and Image Credits: Yijing Liu, Yan Jia, Qingyin Tan, Zheli Liu, and Luyi Xing. How Are Your Zombie Accounts? Understanding Users’ Practices and Expectations on Mobile App Account Deletion.
Twitterのbot自動検知ツールは“正確ではない”研究結果 米MITが発表
数学の未解決問題「アインシュタイン問題」を“完全解決”する新図形発見 「The hat」を改良
どんな物体も“ステルス”加工できる技術 東大などが開発 形状の再帰性反射を最小化
脳で考えた“歩け”を脊髄に無線送信 下半身不随の男性が歩行に成功 脳と脊髄に電子機器を埋め込む
薬物を時間差で放出する“奇抜な形の錠剤” 3Dプリンタで印刷 米国とドイツの研究者らが開発Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR