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京セラが“超ニッチ商材”をメタバースでお披露目 その狙いとは?(3/3 ページ)

» 2023年07月07日 16時00分 公開
[山川晶之ITmedia]
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「超ニッチ商材」をメタバースでお披露目する理由

 こうした体験はリアルだとまず無理だろう。バーチャルかつ、設計自由度の高いVRChatを生かした取り組みといえる。とはいえ、B2Bの展示会にありがちな商談の場というよりは、ショールームやパビリオンの拡張版にも見えた。製品自体を知ってもらうというよりは、企業としての取り組み、製品の将来性などを概要的に伝えるのに向いていそうだ。

メタバース展示会を企画した京セラの田中氏(左)、ワールドの企画開発などに携わった「往来」代表のぴちきょ氏(右)

 田中氏も同じ考えのようで「直近で何かビジネスに役立てようということではない。当社の取り組みや製品の認知度向上やブランド価値向上」が中心という。京セラは、2022年にも同社の工具系に絞ったメタバース展示会を開催。「B2B企業がメタバース展示会」という意外性、VRChatユーザーの多くがクリエーターであり、SNSでの拡散力もあることから大きく話題に。「Twitterの投稿を拝見するととても好意的なご意見が多く、B2B商材であっても興味を持って頂けた」とする。

 一方で、「実際の現場からの反応はまだまだ少ない」と語る。VRChatだと、まずアカウントの作成が必要であり、安くないヘッドマウントディスプレイを被る必要がある。金銭的にもITリテラシー的にも参加のハードルはまだまだ高い。しかも、商談に使える機能などが未整備など、リアルの展示会のように「ふらっと入ってみたら興味を持ったので商談に入る」といったことは難しい。

 「安くて操作しやすいVR HMDの普及も必要だと思う。今のところ、Quest2で目的のインスタンスにジョインするまでの操作を、例えば町工場の経営者の方に行なっていただくのは難易度が高すぎるので、電源入れるとすぐに目的のイベントに参加できるような仕組みが入ったデバイスが必要だと感じている」(田中氏)。

 しかし、一部の遠方の顧客から「バーチャルの展示会は助かる」という声もあったという。展示物はバーチャルだが、現地に行かなくとも担当者と直接“対話”できる。国内外問わずワールドに来てもらえるため、商談機能などが実装されるようになると、よりビジネスでの活用も増えてくるのではと田中氏はみている。

人材採用にも効果が出ている

 それ以外の効果も出ている。田中氏によると、京セラは経営陣がボトムアップからの提案に理解が深く、社員発の新規事業が生まれやすい社風だという。メタバース展示会もその一環で生まれたもので、もともとVRChatユーザーだった同氏が企画を立案。半年ほど社内営業活動を続けた甲斐もあり、実現にこぎつけた。こうした企業風土が伝わったのか、メタバースの企画を知って入社を決めた学生もいるようで、現在、その新入社員は田中氏とともにメタバース展示会に携わっている。

 また、「どうやって社内で企画を通したのか」など、他のB2B企業からもメタバースを使いたいという相談も増えているようだ。リアル展示会との違いから、B2B企業がメタバースを使うメリットは「現時点ではあまりないかもしれない」と正直に語る田中氏だが、「いずれ多くの企業がメタバースイベントを開くと思っているので、その先駆けになれれば」と、先駆者として今後も取り組む姿勢を見せた。

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